エルフ、納得する
「精霊さんに自分が作ったポーションで窒息死させられるとか笑えない」
一気に流し込まれたポーションを頑張って飲んだ私の体は体力はさておき傷一つない真っ新な体へと戻った。それでも私を心配したらしい精霊さんがさらにポーションを飲ませようとしてきたのをなけなしの体力を使って振り解いた私は肩で息をしながら座り込んでいた。
息って止めるのは簡単だけど詰まらせられると辛いんだね。
『けがなおってよかったねー』
『ぜんかい』
『こんどはぽーしょんつくりにでもてをだす?』
『たのしいかもー』
精霊さん達の趣味がどんどん多くなってる気がします。
ポーションとかどうなるだろう。
「そんなことより、さっきのスケルトンドラゴンが反乱軍の切り札って考えていいのかな?」
かなり手強かった。魔力がもうすっからかんだし。これ以上戦えと言われたらフィズをけしかけるしかない。
もう一体は精霊さん達が攻撃してるから任せるほかないよね。
『どうだろー?』
『なんかしょうかんじんがあちこちにあるけど』
「え……」
不吉な言葉が聴こえた気がする。
しょうかんじん…… 召喚陣?
契約したのを喚び出すものだよ。それが複数?
残り少ない魔力を眼に集めて意識して周りを見渡してみると確かに至る所に召喚陣が作られてる。
ってなんか出てきてるのもあるんだけど。
あとついでに空になんかいる。
『む、』
『なにやつ』
なんか精霊さんが古臭い言葉で喋ってる。
一応、気配が頭上にあるので気怠さを感じながらも視線を上へと向ける。
「ふむ、反応が消えたと思って見にきてみればそこのエルフがやったのか」
ピカピカした王冠を頭に乗せ、不可思議な輝きを放つ服とマントを着込み、手には子供の頭くらいの大きさはありそうな紅い宝石が先端に付いた杖を持ったすっごい偉そうな顔をした太った奴が空を飛んで私を見下してきた。ちょっとイラッとする。
いや、それにしても全然強そうに見えないのに空飛んでるよ……
『あれすごいね』
『うん』
『まどうぐまみれじゃん』
「魔導具?」
『そうそう』
『あいつきてるのあたまのてっぺんからくつのさきまでぜんぶまどうぐだよ』
なにそれ、人じゃなくて動く魔導具じゃん。
でもそうか。魔導具の力で空を飛んでるなら納得できるね。
「頭が高いぞエルフ! 我を誰と心得る! この帝国の真なる皇帝、ゴーシュ・エナハルトであるぞ!」
「……」
知らないよ。いや、名前はヴィから聞いてるから知ってるけどさ? 顔は知らない。
それに見下ろしてるのはおっさんの方で見上げてるのは私なわけだから頭が高いってのはおかしい気がするんだけどなぁ。
私は無言で見上げているんだけど、ノリがいい精霊さん達なんかはハハァと楽しそうに頭を下げてた。
「ふん、やはり我が愚かな娘に付くだけのことはある。最近の若いものは礼儀というものをしらん」
やれやれと言った様子でデブは首を振る。
いや、多分だけど、生きた年数だけで見たら私の方が長生きしてるんだけどね? 言っても無駄っぽいから何も言わないけどさ。
『あいつちょうしにのってる?』
『そらとんでるだけでずにのってる?』
『くびおとしちゃおっか?』
『にくをそぐ』
精霊さん達の過激発言がやばい。
怒ってるのか身体から発されている魔力もすごい。私は止めないけど。実際は今はもう精霊さんを止める魔力もすっからかんなので私には止めようがないんだよね。
それよりも気になるのはこの一見、何の力も無さそうなデブがあの強力なスケルトンドラゴンを従えていたことなんだけど、精霊さん曰く身に付けてる物の大半が魔導具なんだったらスケルトンドラゴンを従えるような魔導具を持っていてもおかしくないのかな?
「ふん! とりあえずは魔力もないエルフなどは放ってまずは我の王座の奪還だな。いや」
ぶつぶつと気持ち悪く呟いていたデブ、もといゴーシュの視線と手に持っている杖の先が私へと向けられる。
嫌な予感しかしないよ!
「邪魔されても面倒じゃから潰しとくか。では我は用があるのでな」
ゴーシュの持つ杖の先端にくっついている紅い宝石が鈍く光り、疲労から動きが鈍くなっている私の周りを瞬時に現れた幾つもの魔法陣が取り囲むようにして輝いた。
それを見届けたゴーシュは空を飛びながらヴィの城の崩れた部分から中に入っていった。
『しょうかんじん?』
『いっしゅんでこんなに⁉︎』
精霊さん達が驚いたような声をあげる。
事前に召喚陣がいくつもあったことを精霊さんに知らされていたけどこれは素直に凄いと思う。
召喚陣の同時起動なんてめちゃくちゃ難しいんだから。
そんな高等技術を空に浮かぶデブで努力なんかしたことなさそうな奴が行ってる。
魔導具ずるいよね!
私の抗議なんて無視するように光り輝く召喚陣から巨大な魔獣が殺気を撒き散らしながら姿を現したのだった。