エルフ、蹴る
人間の人たちが来て三日。
彼らは全然目を覚まさなかった。
精霊達が言うには死んでるわけじゃなくてひたすらに寝てるらしい。
余程疲れていたのかな? 私も三日寝てたけど。そしてまたベッドが傾いて無理やり起こされた。
このベッドどうなってるんだろう?
そして丁度起きたタイミングで人間達も目を覚ましたと精霊達が教えてくれた。
ソラウと一部の精霊達はまだ森で暴れてるらしい。
今のところこちらに害はないから放っておこう。決して対応が面倒なわけではない。
「一体何が……俺たちは森を走っていたはずだが」
欠伸を噛み締めながらログハウスから出ると一番初めに目を覚ましたらしい人間の方が頭を抱えながらブツブツなにか言っているという不気味な姿が目に入った。
周りにはまだ体が動かない方達もいるみたいだから精霊達に頼んで私が作ったエルフ印のポーションを取ってきてもらい、まだ意識を失っている人達に更に掛けて行ってもらう。
そして一人起きた男の人ですが、正直不気味な感じです。しかし、いい感じにせいれいじらい、とやらに吹き飛ばされた記憶はサクッと無くなってるみたいです。
実に好都合です。
変な説明をしなくても良くなりましたからね。あと混乱してるみたいだから話題を探さなくてよかった。天気の話題も必要なさそう。
「大丈夫ですか?」
とりあえず混乱している様子の人間の男性に話しかけます。
それでようやく私がそばにいる事に気付いたの男性の視線が私を捉えてた。
「え、エルフ⁉︎ ならばあなたが精霊達が言っていた世界樹の主人がぁ⁉︎」
唾を飛ばしながらこっちがビビる勢いで私に迫ってきます。
なんなんですかこの人! 瞬きをした間に私の足元まできてますし!
あまりに気持ち悪かったので反射的に顔を思いっきり蹴りつけてしまいました。というか生理的に受けつけない。
男の人の顔から結構危ない音がしてたけど多分死んでないよね?
「それにしても世界樹?」
それに世界樹ってなんだろ? ここにあるのは精霊樹だから勘違いしてるのかな?
でもソラウとか精霊達から聞いたみたいな口ぶりだったけど。
きっとソラウが話をめんどくさがったから精霊達が本当のことを言ってないんだろうなぁ。
「うぐぅ……」
あ、生きてた。
他の倒れてる人達よりこの人だけやたらと頑丈な気がする。
せいれいじらいに吹き飛ばされて、水に叩きつけられて、更には顔に蹴りを入れられていてまだ呻いてるし。
『とどめさしとく?』
『ばくはばくは』
君たちはなんでそんな好戦的なのかなぁ?
精霊ってもっと神聖なもののはずなんだけど……
あとこんな近くで爆破なんてしたら私が巻き込まれるからやめて。
「こ、ここは?」
また記憶が飛んでますか?
説明が必要ですか? 面倒ですね。
また面倒くさくなる前に一方的に説明しておきましょう。
まだフラフラとしているらしい男の人の顔を両手で掴み眼を合わせます。
「あなた達が突然吹き飛んできて泉の中に落下したんです」
嘘は言ってません。
あなた達が突然(精霊の仕掛けた悪戯により)吹き飛んできたので泉の中に(私が魔法で引っ張って)落下したんです。
ええ、微塵も嘘も付いてませんよ。言葉が足りないだけでね。
「そ、そうですか」
なんで眼を反らしながら答えますかね?
せっかく嘘偽りなく説明したというのに。
「で、では世界樹の主人であるエルフに聞きたいことがあります!」
「なんですか?」
とりあえず暑苦しい人です。
話を遮るよりさっさと話をさせたほうがまだ楽そうです。
あともう精霊樹の事は世界樹と思い込んでいるこの人の思い込みを正すのも面倒だからやめとこう。
「この地に世界樹を生やした理由をお聞かせ願いたい」
「え、たまたまですよ?」
『たまたまー』
『たまたまたまたまー』
「はっ?」
私の言葉を精霊達が楽しそうに真似てきます。
だってたまたまですから。
持ってた枝がたまたま精霊樹の苗木で、植えたというか地面に刺したらたまたまでっかくなっただけなんですから。
あれ、たまたま多すぎじゃない?
「そんな馬鹿な! 世界樹の近くに街を作れば繁栄は約束されるというのにそれをしないというのか!」
「え、面倒じゃない」
『じゃない』
『じゃないじゃない』
男の人がなんでそんな驚くかわからないけど精霊達はそんな男の人には興味がないのか楽しそうに私の周囲をクルクルと回りながら歌っていました。