エルフ、留まる
「無駄骨だった」
ヴィの城の一室でベッドの上でだらけながら三日前の銀の滴アジト襲撃の戦果のなさとまだ体を動かすだけで悲鳴を上げる極度の筋肉痛に対してゲンナリしながら呟く。
『むいみだったねー』
『ぼくたちはたのしかったよ』
『からみてぃのあたらしいぶそううかんだし』
『あとはじっせんはいびー?』
「ギャァァァァァァァァ!」
私の側にいる精霊さん達には有意義だったらしい。
またあのカラミティの武装が増えるんだね。本当にあんなのを作ってどうする気なんだろう? そろそろ国くらい簡単に落とせるくらいの戦力なんじゃないかな。
さらにいうと精霊さん達は作った試作品武器を騎士団の訓練に紛れて実験してるらしい。たまに聞こえる悲鳴は多分それかな。実に充実してるね。
「イルゼさま、今日の予定はどうされるんでしょうか?」
「食べ歩き的な?」
そんなたまに聞こえる悲鳴を無視して部屋の隅の方で待機していたらしいアンとトロワが尋ねてきた。
悲鳴が聞こえてるのに表情一つ変えない。なんか強いね。
帝国に来たんだから好きにしていいよって言ったんだけど彼女達曰く、帝国に来てから精霊さん達に追いかけ回されたり悪戯をされたりされる回数が減ったから気が楽になったいうことだった。
まあその分、城にいるメイドさんや騎士の人達に悪戯をしてるんだろうけどそこに私が関与する気はない。
精霊さん達のエネルギッシュな悪戯に付き合うのは疲れるからね。
「面倒だし、寝具も手に入りそうな感じがしない。森に帰るのもありかな」
「えー帝国には美味しいものが多いですよ?」
トロワの言うように美味しいものは確かにあるんだろうけど私はあんまり食べ物には拘らないんだよね。
エルフはそんなに食べ物を食べる必要ないし。
つまるところ帝国にいる必要が全くと言っていいほどない。
遊びにきたというのが目的ではあったんだけどよくよく考えたら私って遊ぶより寝たりダラダラするほうが好きなわけだしね。なんで来たんだろ?
「そのことなのですが」
私の想いが森に帰る方向に傾き始めているとアンが申し訳なさそうな顔をしながら口を挟んできた。
「陛下よりあと数日滞在してほしいという連絡を受けております」
「え、なんで? 迷惑しか掛けてない気がするけど」
主に精霊さんが。私がやったのは不可抗力だよ。
「詳しくは申されませんでしたが、滞在されるならば皇帝御用達の寝具一式を渡されるとの……」
「泊まる! くれるなら何日でもいいよ!」
『そくとー』
アンの言葉を遮って私は了承する事を伝える。
だって皇帝御用達だよ? 絶対ふかふかだよね。
それがこのままいるだけで手に入るなんて。何か裏があるとか?
「誰か暗殺とかすればいいのかな!」
だとしたら楽なんだけど。
対象がいる建物ごと吹き飛ばしたらいいだけだし。
「そ、そんな物騒なことは仰らないかと思いますが……」
「陛下は無闇矢鱈な攻撃を仕掛ける方じゃないよ?」
アンとトロワが何故か顔を引き攣らせながらそんな事を言ってくる。
そっかぁ。対象の位置が分かれば一時間くらいあれば簡単に終わるのに。
「じゃあ、寝て過ごすかなぁ」
とりあえずは筋肉痛を治さないとね。