エルフ、憧れる
もう魔力がほとんどないからやめてほしい。
人の話を聞かないのはソラウだけで充分なんだよ。
ヤーヘッド改めヤークウッドが振り下ろしてきた剣を私は残り少ない魔力を通して透明な刃を作り上げた精霊樹剣を鞘から引き抜いて盾のように使って受け止める。
ヤークウッドの剣と精霊樹剣がぶつかり甲高い音が響き、同時に受け止めた衝撃で腕が痺れる。
いつもならなんでも両断できる精霊樹剣の刃で切れない? ついでに精霊樹剣の柄にも妙な感触があるし、嫌な音も響いてる。
これ、いつ壊れてもおかしくないかもしれない。
「精霊さん、たすけて!」
やばそうだから精霊さん達に助けを求める。
出来ないことは他の人にやって貰えばいいからね!
『むりー』
『まりょくぎれー』
『せいれいじゅがそばにないからかいふくおそーい』
なんだかとてもすまなそうな顔でそんなことを言われた。
えぇ、余力もなしですか? 私も全く余力がないんだけど……
それに魔力の回復がいつもより遅いのは精霊樹が近くにないからだったとは。
知らなかった。
「剛力!」
「ちょっ」
剣を受け止めてる精霊樹剣に掛かる圧力が上がったよ。ついでに精霊樹剣からも更にヤバい音が上がる。
「離れて!」
底を尽きかけてる魔力を絞り出すように一瞬だけの身体強化魔法により片手でヤークウッドの剣を受け止めている間に反対の手で二本目の剣である魔王の剣を引き抜き、ヤークウッドの胴へと閃かす。
でも一瞬しか強化できていなかった私の剣なんて容易くヤークウッドには躱され、あっさりと距離を取られた。
ぐぬぬ、魔力がないと攻撃が当たる気が全くしないよ。
悔しげに地団駄を踏んでいるとなんかヤークウッドの構えてる剣が青白く輝いてる。
多分、魔力を流してるのかな?
私が精霊樹剣に魔力を流してる時もぼんやりと光ってるらしいし。
何がくるか分からないから一応、注意深く見ながらジリジリと後ろへと下がる。あれは良くない感じがする。
『いるぜー』
『きゅーえんきたよー』
『せんめつせんだー』
朗らかに物騒な事を大声で宣言しながらやってきたのは多分、魔力を使い切ってない精霊さん達のはず!
流石に魔力を使い切ったままき来て救援とか言わないよね?
援軍に来た精霊さん達の容赦のない魔法が雨のように空から降り注ぐ。
「精霊、以前にボコられてたボクと同じと思うなよ!」
あ、やっぱり城にいた時はボコられたんだ。顔とかボコボコだったしね。
「舞え! クラカラグラ!」
ヤークウッドが何かを唱えながら彼の手元で青白く輝いていた剣を振るう。明らかに私との距離があったにも関わらず瞬きをする間に切先が私の目の前に来ていたから驚いた。
でも私の顔へと当たる寸前で刃は急に軌道を変える。
『あぶなー』
「た、たすかった」
精霊さんが飛んできた刃へと魔法を叩き込んだのか切先は私の顔を貫くことなく軌道が逸れ、私の頬を切り裂くだけに止めた。
「ちっ!」
ヤークウッドが舌打ちをしながら手元の剣を振るう。
まるで巻き戻されるかのように私の顔の横を刃が戻っていく。
ヤークウッドの剣は刀身が幾つもに分離し、紐のような魔力で繋がっていたまるで鞭のような動きをしながら宙を舞っていた。
「あれ、かっこいい!」
『いや、ぴんちだから』
『あれははじけないかもー』
『がりあんそーど?』
私が瞳を輝かせながら魔力を纏いながらヤークウッドの周りで回転する刃を見ていると精霊さん達が呆れたような声を出していた。
いや、ピンチとかっこよさは別じゃない?
ああいうの憧れるよね。