鬼、きれる
「ごふっ!」
魔剣を歯で防いでいたヘテルベルの口から血が流れる。
しかも結構な量。滝とは言わないけどドバドバ流れてる。
そんな大量の血を一気に流したからか体から力が抜けたようにヘテルベルは膝をついた。
そりゃ背中に武器を突き刺されたらそうなるよね? いや、私が同じことをされたら死ぬよ。
「ふむ」
二本の魔剣に力を入れていたおじいちゃんだけどそんなヘテルベルの様子を見て興が削がれたと言わんばかりに魔剣を引き、警戒する事なく魔剣を二本とも腰の鞘へとしまってしまった。
もう脅威じゃないと判断したのかな。
「精霊さん、空気読まないと」
もしかしたらこれから熱い戦いが始まったかもしれないのに。
心なしかおじいちゃんがしょんぼりしている気がするよ!
完璧に不意打ちだったし。
『せいせいどうどうとか』
『みせものじゃあるまいし』
『そういうのはものがたりのなかだけだよ?』
『らくしようよ? こすぱさいこー』
精霊さん達の言葉には夢とか浪漫とかの類は一切ありませんでした。
その割に精霊さん達が作るのは当たればデカい! みたいな本人達に言わせれば浪漫の塊みたいな物ばかりですけど。
他の人にやる事と自分たちのやりたいことが矛盾してるよね?
『そもそもー』
『じかんぎれてきな?』
「時間切れ?」
何の? と尋ねる前に私の視界内に変化が映った。
「あ、ががががががががが⁉︎」
血を吐き出していたヘテルベルが素人目に見てもやばそうな痙攣をしていた。
え、なにあれ? 血を吐きすぎて何か変な症状が出た?
ついでに精霊樹剣がどんどん光り輝いてるように見える。その輝きは時間と共に増してる。けどその代わりにヘテルベルの顔色はどんどん悪くなってるし吐き出す血の量も増えてるように見える。
なにあれ?
『だからー』
『じかんぎれみたいな?』
『ちょきんがなくなったんだよー』
「どういうこと?」
精霊さん達はまるでこうなるのが分かっていたかのような口ぶりだ。
気楽な口調で話している間にもヘテルベルの体調は悪くなっていっているみたいだ。
いや、よく見たら精霊樹剣を持ってる手から順に徐々に萎んでいってるような気が……
『いままではいるぜがけんにためてたまりょくをつかってただけだしー』
『むしろ、ためてたまりょくでよくここまでちょうしにのれたみたいな?』
『たりなかったぶんをかいしゅうされてるてきなー』
…… つまりヘテルベルがあの精霊樹剣を使えたのは精霊樹剣に残ってた私の魔力のおかげって事?
というかあの剣、私の魔力吸ってたの⁉︎
「魔力吸われすぎたら死んじゃうじゃない⁉︎」
『いるぜのまりょくりょうからかんがえたらごさのはんいだよ?』
『からだからたれながしてるのだし』
『むだなくつかってるだけだしね?』
『つまりえこー』
「普通のエルフなんだよ⁉︎ 私! 死んじゃうよ!」
『『『『……』』』』
なんで黙るの⁉︎