エルフ、焦る
『うまくいったね!』
『せいれいじらいせいこう』
イェーイと精霊達がハイタッチをしている横で私は呆然と次々と引き起こる爆発、そして吹き飛ばされていく人間が空に巻き上げられていく様を見ていた。
話を聞いて精霊達の悪戯レベルかと思ってたけどそんなレベルじゃなかった!
威力は確かに身体が残ってるから大した威力じゃないと思う。精霊達が本気を出せば人間の肉体など一瞬でミンチにすることができることは私もよく知ってる。
それが派手な爆発に比較して吹き飛ばすだけで留めているんだから悪戯レベルで済むと思ってた。
ただし、それは飛ばされてた後に着地できたらの話だけどね!
爆発で吹き飛ばされた人間はかなりの高さまで飛ばされてる。
あのまま落下したら絶対に死ぬレベルの高さだよ!
「ちょ! あれあのまま落ちたら死ぬよね⁉︎なんか対策してるの⁉︎」
機嫌よくハイタッチを繰り出していた精霊達に叫ぶように問いかける。そんな私をしばらくキョトンとした表情で見ていた精霊達だったけど少しして小さな親指をグッと立てていい笑顔になった。
よかった対策してたみたいだ。
『しんにゅうしゃにしを』
「全然対策してないじゃん!」
『ちみつなけいさんによりたぶんしぬ』
「緻密なくせに多分とか言わないで!」
しかも死ぬし!
めちゃくちゃ過激な思考だった。
後絶対難しい言葉使いたいだけだ。
このままだと私の前で地面に叩きつけられてぐちゃぐちゃになった人間の死体が出来上がってしまう。
死体は森の養分になったりするけど私の気分的にそんなぐちゃぐちゃな死体は見たくない。
「てぇぇぇい!」
私は自身の魔力を一気に解放する。
落下してくる人を風で抱えるなんて器用な事は私には出来ない。吹き飛ばす事なら出来るかもしれないけど、どこか別のところに叩きつけて殺しちゃうと思う。
だから私がやるのは風を使って落下位置をずらすことだ。
私の体の周囲を翡翠色の魔力の風が揺れる。
いつものように魔法に変換していない私本来の純粋な魔力の色に染まった風だ。ただの魔法や風とは比べものにならないくらいの力を持ってる。
ただし、この魔力の風を作るのは本当にしんどい。
ひたすらに私の魔力を食うし、長く保たない。
だから手早くする必要がある。
翡翠色の風が私の周りで旋回する。それだけで精霊達は楽しそうな悲鳴を上げて吹き飛ばされていく。
遊んでるわけじゃないけど君達はなんでも楽しそうだね!
この風を使うと凄く疲れるからやりたくないんだよね。
ただ、ミンチは見たくないからなぁ。
「さっさと終わらせるよ! 風よ」
私のイメージを受けて翡翠色の風が上空へと登っていく。
落下してくる人間を風で掴んで落ちる位置を調整していく。
『がんばれー』
手伝う気がないであろう精霊達の全く心が篭ってない声援が耳に入った。
応援するなら手伝って欲しいんだけど⁉︎
これ君達のやったことの後始末だからね!
風で掴む、投げる。掴む、投げる。
それを何度も繰り返して地面に落下するはずだった人間たちの落下位置を弄っていく。
落ちる場所を泉にしとけば多分死なないよね。
水があるわけだし多分クッションにもなるはず!
「これで大丈夫よね!」
最後の一人を泉の真上に動かして翡翠色の風を消して、額に浮かぶ汗を拭う。
ふー、嫌な汗かいたよ。
『ねーイルゼしってる?』
「なに、が?」
一気に魔力を使ったことにより体の気だるさを感じ、肩で息をするようにして精霊達へと視線を向ける。
『たかいところからみずにおちるとめちゃくちゃいたいんだよー じめんにぶつかったときみたいにー』
「え?」
精霊に間抜けな声を返すと同時に泉に水柱が上がっていく。それも立て続けに。
精霊達は水柱が上がったことによって周りに水飛沫が飛んできたことによりキャーキャーと嬉しそうな悲鳴を上げて楽しんでいたけど、私は泉に力なく漂う人間達を見てちょっぴり顔を青くしていたのだった。
死んでないよね?
「きゅぅぅぅぅぅ⁉︎」
精霊の仕掛けた『じらい』とか言う爆音が鳴ってても起きなかったフィズだけど流石に寝てる周囲に人が降ってきたら驚いたようにして飛び起きてた。