戦鬼、試す
「さて試し切りじゃ」
こちらに向かって勢いよく突っ込んでくる銀の雫のリーダーとやらが手にしている金棒を大きく振りかぶっている姿を見て儂は顔を綻ばせていた。
なにせここにいる連中は本当の大したことがなかったからのぅ。
ヤークウッドの小僧と共に乗り込んだはいいが全くの拍子抜けじゃ。
これじゃったらもっと早くにアジトを殲滅しておけば陛下の悩みも多少は軽減されていたであろうな。
まぁ、ここの背後にいる連中のことを考えるとそう簡単にいかんのが頭痛の種じゃな。
剣聖や騎士団はあくまでも武力じゃからのう。戦うことなら任せてほしいんじゃが頭を使うのはめんどいからのう。
アジトの中はある程度はヤークウッドと儂で掃討はできておるから現在はアジトの中を騎士団の連中が家探しをしておるところじゃ。
そんな退屈な作業を見ていた儂の感知できる範囲内になんじゃか魔力がやたらと動いておる空間があることに気づいた。
まだ楽しみが残っておるようじゃ!
そう考えた儂は探索を続けている騎士団連中から気配を消してそっと離れ、魔力を感知した場所まで走る。
走って移動をしている間も魔力はあちらこちらと動き回っており、さらには異空間にあるはずのアジトまで揺れておる。
恐らくはハイエルフ殿と精霊の仕業であろうな。
しかも感じる魔力の量はかなりのものじゃ。
つまりはそれなりの強さを持つ相手なのか、それとも遊んでおるかじゃな。
ハイエルフ殿の性格はわからんが精霊たちの性格は遊興的というか快楽主義のようなものがみられるからのぅ。なんとも判断がつけにくいところではあったんじゃが……
「ふむ」
目の前に迫る鬼を見ての儂の判定ではそこそこといったとこじゃろう。全開ではないようじゃしな。
まぁ、精霊にとったら鬼は相性が悪かったんじゃろうな。鬼は一部の人間が使うことができる闘気を呼吸するかのように自然に扱うことができる。しかもこの闘気は密度を高めれば魔法が通りにくいからのう。
そんな相性の悪かったであろう相手を弱らせておるんじゃから精霊というかハイエルフ殿の恐ろしさがわかるというもの。
「しねぇぇぇぇぇ!」
振り下ろされた金棒を後ろへ下がることで躱す。
力押しじゃのう。
振り下ろされた金棒が床を打ち、破壊する。破壊された床が瓦礫の砲弾となりこちらに向かって飛んで来とるがそれは食らってやる気はない。
右に握る精霊からもらった炎の魔剣へと魔力を流し込みながら瓦礫めがけて振るう。
儂の魔力を吸い込み、魔剣の刀身がほのかに赤く染まり、振るわれた魔剣が瓦礫を一閃。全くの抵抗を感じさせぬままに両断され二つに分かれた瓦礫は瞬時に燃え尽きた。
瓦礫が燃え尽きたことに鬼が目を見開いておるがそんなことには構わず、今度はこちらから攻める。
滑るように床を移動し、今度は左の氷の魔剣を鬼の首目掛けて切り上げるように放つ。
「ちっ⁉ 闘気を切り裂いた⁉」
「ほっほっほ、いい反応じゃな」
首を反らして、といっても僅かにかすったの首筋に一筋の傷が残ったわけじゃがな。
しかし、この魔剣もやばいのう。魔力を流していないのにも関わらず鬼の纏う闘気を存在しないかのように容易く切り裂きよったぞ?
こんなものやばいものが失敗作とはあのハイエルフ殿が持つ成功作であるあの剣はいったいどれほどの性能を持つのか非常に気になるところじゃ。
「使い勝手は上々。では徐々に速度を上げていくぞ?」
「このジジイが!」
鬼が激高したかのように金棒を振り回す。
その攻撃を今度は魔剣に魔力を通さずただの剣として使用し、両手の魔剣で迎え撃つ。
この魔剣の切れ味ならば金棒ごと腕を両断できるかと思ったんじゃが、闘気で金棒を覆ったのか両断できなかった。ほう、やるのう。
僅かに感心していると金棒の切先といってもいいのかわからんが先端をこちらへと向けて突き出してきよった。
突き出された金棒を右の魔剣で横から殴りつけるようにして軌道を逸らし、お返しと言わんばかりに左の魔剣で突きを放つ。
うーむ、やはり魔力を使わないと戦闘状態で闘気を纏った鬼の皮膚を切り裂く事は出来んようじゃな。
それからもしばらくの間、魔力を使わずに魔剣で攻撃を仕掛けていったわけなんじゃがやはり闘気を抜ける感じがせん。おそらくは纏う闘気の密度を上げたんじゃろう。
こっちも魔力と闘気を使えば容易く抜けそうじゃが、今回は試し斬りじゃからな。
この魔剣は使えるという事は使えるという事はわかったわけじゃしそろそろ魔力と闘気を併用して逃げられないように足でも斬り飛ばすか。
繰り出される金棒による攻撃を捌きながらそう算段した儂が全身に魔力をみなぎらせた瞬間、儂が開けた穴の反対側が音を立て穴を開けながら金属の突起物のようは物が突然現れ、その先端がパカっと軽い音を立てながら開いた。
『いたぁ!』
『みつけた!』
『にがさないぞ!』
金属の突起物の中から現れた羽の生えた小さな生き物、精霊達がヘテルベルを目に大声を上げたのだった。