エルフ、告げられる
『こうげきせずにぼうぎょする』
『つまりはそこにちからをいれたのならば』
『ちゃちなこうげきはきかなーい』
イェーイと精霊さん達は楽しそうにハイタッチをしていた。
まあ、確かに今までの精霊さん達は防御なんかに全く力を入れてなかったしね。
そんな存在が防御に本腰を入れればどうなるか?
答えは簡単。突破できなくなる。
精霊さんという存在は魔法を使うという行為に関してはかなりのアドバンテージを持つ。それこそ防御なんて考えずに攻撃魔法を連射すれば大抵の存在を吹き飛ばせるわけだしね。ソラウとかイーリンスとか精霊として上位ではない精霊さんでも数さえいれば国を軽々と滅ぼせる。
そんな存在が遊ばず、真面目に防御へと力を込めたなら生半可な攻撃では突破することはできなくなるし。
そして実際にヘテルベルの攻撃は私には届かなかった。
棍棒が防御を突破できなかったことに驚いたのヘテルベルは眼を見開いています。
そんな無防備なままでいいの? と思わず考えてしまいます。
「きゃぅぅぅ!」
無防備な状態でいるヘテルベルとは違い、フィズはというと準備万端です。
全身が青白く発光し、体の周りには小さな雷が発生し始めています。大きく開けた口には膨大な魔力が迸り、空気を振動させています。
「きゅうぅぅぅぅぅぅ!」
そして閃光、竜魔法エレキキュールが放たれる。
目の前の空間を線が横切るようにして駆け、そして遅れたように青白い火線が宙を疾り連鎖するように空間を焼き払っていきます。その間にある物全てを平等に無視して。
「あがぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
それは標的になっていたらしいヘテルベルも例外はなかったようであれほど魔法やフィズの尻尾を喰らってもかすり傷一つなかったヘテルベルだったけど現在は右肩を押さえて絶叫してます。
押さえているであろう右肩より先には本来ならあるはずの腕はなく、代わりに血が結構な量で流れてます。
ついでに肉の焦げたような臭いもただよってるんですが血の臭いも混ざってるからか全く食欲を誘う香りではありません。精霊さん達も若干げんなりしてるような感じです。この子達はお肉とかより甘い物とかの方が好きですしね。
「きゅー! きゅ!」
さて、そんな精霊さん達をげんなりとした表情を浮かべさせた張本人、いや、竜だから張本竜? はというとえらく上機嫌でした。
なんか攻撃が効かなかった事を根に持ってたみたいですし、傷を負わせたのが嬉しいんでしょう。
腕一本吹き飛ばしたのはやりすぎに気がしますけど。
「ぐぅ、魔法すら弾く俺の金剛闘気を易々と貫くとは」
「ふーん?」
そうは言われてもね? 私にはそれ見えないし。
さっき初めて聞いたくらいだし。いまいち凄いのかがわからないね。
『あのおにのからだのまわりにあるやつだよー』
『ゆげみたいなのー』
『おしろのひとたちもだいたいついてたよー』
精霊さん達がくるくると私の周りを楽しげに飛び回りながら教えてくれます。
湯気みたいなのが体の周りにある? 精霊さん達には見えてるみたい。
そう言われたので眼でしっかりとヘテルベルを見てみますが全くそれらしいのは見えません。
「見えませんよ?」
『まほうじゃないからねー』
『ぶきもってたたかうひとはだいたいつかえるみたいな?』
『いるぜせんすないからー』
センスがいるようなものなんですか。そんなあっさりと注げなくてもよくない?
無くても困りませんけどね。ええ、全く困りませんね!
どっちにしろフィズの一撃で貫通しましたし!
え? 私の力じゃない? フィズを召喚したのは私ですからフィズの力は私の力なんです。
「さて、片手がなくなったらオーラとやらは減るんですかね?」
何気なく呟いた私の言葉に防御壁を張っていた精霊さん達が僅かに反応します。こんごうとうき、というのがどのような効果で攻撃を防いでいるのかはわかりませんが、体に纏うような物なのならば腕の一本分くらい弱まったんじゃないかな?
『なるほど』
『いまこそはんげきのとき』
『まほうのあっしゅくりつをあげよう』
『ちまつりだぁ!』
再び防御から攻撃へと姿勢を切り替えた精霊さん。
さっきよりも魔法に注いでいる魔力が増えてる気がします。
『くらぇ!』
『さっきはよくもやったなぁ!』
『しかえしだ!』
精霊さん達が怒りをぶつけるように色とりどりの魔法がヘテルベルへと襲い掛かった。
「クソが!」
ヘテルベルはというとどうやったのか右肩から流れ出る血を止め、左手で棍棒を握りしめると自らに向かい飛んでくる魔法を迎撃し、背中を向けて逃走を開始。
「やっぱりオーラってやつが少なくなってるんじゃない?」
『まほうあたるね』
『きずがついたよ』
先程までのヘテルベルならそもそも棍棒で魔法を精霊さんに向かって打ち返してきた。
背中を向けながら、しかも片手でなんて器用な。
でも片手になったからか迎撃はできても精霊さんに打ち返すなんて真似は出来なくなってる。
それに何発かの魔法がヘテルベルへと当たってる。さっきまで魔法が当たったとしても無傷だった。でも今は当たった場所には傷が徐々に出来ていってます。
『これは』
『ふくしゅうのとき!』
『ひゃっはー!』
そんな背中を向けて逃走を開始したヘテルベルを今まで攻撃が効かなかった精霊さん達は容赦なく追いかけ始めたのだった。