エルフ、くっつける
「これはいやすぎる!」
背後から迫る爆音、ついでに振動。
ちょっとした興味から後ろを振り返って後悔した。
『この、あたれ!』
『ぶつりにつよいだけのおにのくせに!』
精霊さんが私の後を追うようにしながら背後へと文句を言いながら魔法を放ち続ける。その魔法、威力がエグい。さっきまでは手加減してたのがわかるくらいにエグい。
だってどの属性の魔法であっても障害物を消しとばしてるし。
そんな馬鹿げた威力の魔法が飛ぶ先にはこれまた嬉々とした表情を浮かべた戦鬼ヘテルベルが手にした棍棒を振り回しながらこちらに向かって走ってきていた。
「オラオラ、エルフも精霊も逃げんじゃねえよ!」
当然振り回した棍棒で弾いた魔法は私に向かって飛んでくる。
もう嫌がらせよね⁉︎
いや、アジトに攻めたのは確かに私たちなんだけどさ。
「精霊さん、加減をしてほしい!」
背後から飛んでくる魔法を体の周りに纏わした風で感知しながらギリギリで避けるという動きをとりながら私は精霊さん達に抗議の声をあげる。
魔法の威力を下げたら私への被害も減るよね⁉︎
『でもあいつちょっとやそっとのまほうじゃだめーじはいらない』
『うちかえしてくるー』
『むかつくー』
いや、その当たらない魔法は全部打ち返されて私へと飛んでくるんですけど……
やたらと魔法に拘ってる精霊さん達だけどその辺は考慮されてないよね。
ちょっとくらいしてほしい。
でもあの鬼、ヘテルベルも全く容赦がない。魔法を棍棒で殴って打ち消すんじゃなくて打ち返してきてるわけだしね。
しかも、打ち返した魔法は精霊さん達が放った時よりも速さも威力も上がってるときてる。
もうめんどくさい事この上ない。
「いだぁ⁉︎」
考え事をしてたらヘテルベルが打ち返したらしい魔法、馬鹿みたいに巨大な光の球体がが私の体の周りの風の防御を突き破って肩へと直撃してた。
いや、悲鳴としては痛いと言いましたけど威力が割と笑えない。
直撃した魔法、私の肩吹き飛ばしたよ!
肩から下の腕がくるくると飛んでいったし。
『きゃっち!』
『まさかいるぜのてをふきとばすなんて……』
『てきはつよい!』
いや、私は普通のエルフなのであんな馬鹿げた威力の魔法を生身で受けたら死んでしまうよ?
走りながら受け取り、懐からエルフ印のポーションを三本程取り出し蓋を歯で噛んで開けると血が流れる肩に精霊さんにキャッチしてもらった腕を血が流れる傷口に添えるようにしてもらいポーションをぶっかける。
ポーションがかけられた瞬間、無くなった肉や骨などを再生さすために凄まじい痛みが発生して無意識に顔に脂汗が浮かぶけど私の腕はなんとかくっついた。
『おー』
『たりないにくとかもなおってる』
『えるふのおくすりはふしぎー』
不思議代表の精霊さん達に言われたくはないです。
ですが、あの鬼。絶対許さない。
私の腕は高くつきます。やられたらやり返すのが私です。
まだ乾ききらない血を指に塗り、その血で私は掌へと図形を書いていく。
「おらおら、逃げてばかりかぁ⁉︎」
精霊さん達も魔法を撃つのは効果的ではないとようやく気付いたようで簡単な移動妨害魔法に切り替えて私の後ろをついてきてる。
その後ろを攻撃をして来なくなった精霊さん達を不審に思ったらしいヘテルベルが大声で煽ってくる。
くっくっく、調子に乗っていられるのも今の内だ。
私は邪悪な笑みを浮かべながら血で掌に魔法陣を描き続けるのだった。