エルフ、逃げ出す
「エルフか。魔法が得意なだけの種族だったな」
大して肉もないから旨くねぇ。と現れた鬼は不満そうだ。
鬼、それは物理攻撃に対して凄まじいまでの防御力を持つ種族らしい。と言っても私も話にしか聞いたことがないわけで初めて眼にするんだけど。
確か長老とかに聞いた話だったら地形を変えてしまうような攻撃の直撃を受けても寝続けていたとか聞いたかな。
でも私の目の前にいる存在が鬼かと言われると私は首を傾げてしまう。
なにせ精霊さん達が叩き込んだのは物理攻撃ではなく魔法なわけだし。
物理攻撃に対して異常なまでの強さを持つ鬼なわけだけど聞いた話を思い出すと魔法に対してはすごく弱かったはずだ。
それなのに魔法を喰らって全くの無傷?
「本当に鬼?」
「おいおい、俺様のこの立派な二本の角が見えないってのか?」
精霊さんが尚も魔法を放って、それが直撃してる事なんてまるで気にもとめないように鬼は自分の額から生える二本の角を指差しながら笑ってる。
「鬼は魔法が弱点じゃないの?」
「相変わらずエルフは知りたがりだな。その癖知らない事が多いし」
エルフが知りたがり? そう言われたら確かに何でも知りたがるのが里にもいたなぁ。私はそうでもないけど。
「だがまあ、教えてやる。単純な話で金剛闘気ってやつだ」
「こんごうとうき?」
初めて聴くね。
『とうきをたれながしてかたくなるやつだよ』
『りょうがおおいとまほうもはじいちゃうんだよね』
『それのせいか!』
……なるほど。防御魔法みたいなものと考えたらいいみたい。
つまり、目の前の鬼はそれを凄い量で垂れ流しにしてるから魔法の効果が出てないってことか。
それって魔法が主体の精霊さんが天敵じゃないの!
『まほうがいくらきかなくても!』
『かずであっとうすればいいのだ!』
精霊さんが散開し、鬼を取り囲むようにして高速で飛び回る。精霊さんの魔法の威力を考えると恐怖を感じる光景だよね。逃げ場ないし。でも鬼は興味深げに飛んでる精霊さんを眺めてるだけなんだよね。全く警戒してる様子がない。
『ぜんほういからの』
『まほうのれんしゃを』
『そのみでうけろー』
飛び回っていた精霊さんからの魔法の一斉掃射が解き放たれる。
「ふん、そんなものが!」
鬼が手にしていた巨大な棍棒を勢いよく振り回し、身体ごと回転し、咆哮を上げる。
「この戦鬼ヘテルベルに通用するか!」
鬼は自身へと飛んでくる魔法を次々と軽快な音を鳴らしながら棍棒で打ち返してきた!
「へ?」
しかもなぜか全部私に向かって。
間抜けな声を上げながらも直撃を避けるべく、咄嗟に私は風の壁を作り出す。作り出した風の壁に打ち返された魔法が続々と直撃しては私の魔力をゴリゴリと削っていく。
いや、精霊さん達どれだけ魔力込めてるの……
『むう!』
『まけるかぁ!』
「ハッハッハ! 効かんと言っとるだろ」
精霊さん達の魔法が更に激しさを増し、戦鬼ヘテルベルの棍棒を振るう速度も上がる。
つまりは私に飛んでくる魔法の数も増えるわけで……
「やばっ!」
危機感を覚えた私の目の前の風の壁はついに飛んでくる魔法の量に耐えきれずに消え去り、私は飛んでくる魔法に背を向けて逃げ出すのだった。