精霊、悪役になる
「あれなんだろう」
精霊さん達は魔法による破壊活動が楽しくて仕方ないのか気づいてないみたいだけど、私はたまたま見つけちゃった。
凄いコソコソと動いてる。もう怪しいことこの上ない。
『あやしー』
『こうげきする?』
破壊活動に参加していない私の側にいる精霊さん達も怪しげな連中に気付いたようで物騒なことを言ってるよ。
「いや、あれってもしかしたら銀の滴の奴らなんじゃないかな」
吹き飛ばした建物にも入口があったのかもしれないけど、出入り口が一つとは限らないよね? むしろ悪いことをしている連中と考えれば非常用の脱出口を他にも幾つか準備していてもおかしくない。
いや、私なら絶対に作る。地下じゃなくて異界なら尚更。
つまりは私の欲するものをあいつらは持ってるわけだよね?
なんかイライラする。
「精霊さん」
『ん?』
『なーに』
私が声をかけると精霊さん達からキラキラとした視線を向けられる。
ああ、今の私の心情を理解してるわけだよね。
「あいつら半殺しにしてこっちに連れてきて」
『うでいっぽんくらいなくなってもいい?』
『はちわりごろし?』
「死んでなかったら生かせるので大丈夫」
さらっと精霊さんが酷いことを言ってますが全く問題ないね。
死んでなければエルフの薬で治りますし。
『『『まかせて!』』』
精霊さん達の機嫌の良さそうな声が響くと同時に風が生じるほどの勢いで精霊さん達が移動を開始。
瞬く間に距離を詰めた精霊さんはあたふたとしている連中へと容赦なく襲撃を開始していた。
私が頼んだとはいえ本当に容赦がない。
『おらぁ!』
『がんばってていこうして!』
『にげろにげろぉ』
セリフだけ聞けば完璧に悪役のセリフだよね。いや、やってる事も逃げてる人を後ろから魔法で撃ってるから完璧に悪役か。
見た目が小さな子供だから襲われてる側も一瞬戸惑うから余計にタチが悪い。やってる内容は暗殺者もびっくりするくらいの襲撃だし。
その戸惑った隙を逃さず精霊さん達はこれでもかっていうくらいに魔法を叩き込む。
「て、敵襲!」
「帝国騎士か⁉︎」
「馬鹿な!」
なんか泥棒のくせに騎士よりスムーズに動いてるのが何人かいるなぁ。
精霊さんが放つ魔法を躱してる人もいるし。
まあ、大半の人は魔法が体のどこかに当たって消し飛んでたり、吹き飛ばされたりしているわけなんだけどね。
いや、というか精霊さん達は生かす気あるの? 一人魔法が頭にぶつかって吹き飛んだけど……
『やっべ、はずした』
『ひとりならせーふせーふ』
セーフじゃないよ。アウトだよ!
一人の人生終わらせちゃってるよ!
「ひぃ!」
「なんなんだこいつら!」
「アジトに戻れ!」
慌てた連中は精霊さん達の魔法に晒されながらも後ろへと下がっていくと何もないはずの空間へと姿を消えていくのを私のエルフの瞳はしっかりと見た。
多分、入り口を隠す魔法でも使ってたんだろうね。
「精霊さん」
『まかせてー』
『らくしょー』
私の一言で意図を察したらしい精霊さんが怪しい連中が姿を消した場所に向かって魔法が殺到させる。
しばらくの間、魔法が炸裂する音が響き続ける。
それが止み、もうもうと上がる土煙が晴れるとそこには何もない地面が見えるだけだった。
やっぱりどこかに隠してるみたいだね。