皇帝、睨む
「陛下」
「……なに」
影から滲み出るようにして現れた裏方の筈なのに最近よく見るようになった忍。
最近、この忍が姿を現した時に絶対に良くないことが起こる気がする。
そのせいか出てきた忍を睨みつけちゃったよ。
いや、悪くないのはわかってるんだ。ちゃんと仕事してるだけだし。
「帝都南の一角、銀の滴の拠点を発見しました」
「でかした!」
思わず書いていた書類を吹き飛ばす勢いで立ち上がってしまった。
なんだいい話だったよ。ごめんね忍、疑っちゃって。
「ですが、帝国の南にあった銀の滴の拠点が消し飛ばされました」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。いや、聞き間違いかも知れない。
「誰が手をだしたの?」
だって騎士団長たちには見つけても手を出すなと言明していたはずだしね。
どこの馬鹿が手を出したんだ!
「手を出したのはハイエルフ様です」
「だと思ったよ!」
騎士団長達はイルゼの怖さを知っている。そうなると騎士団に命令なんて出すはずがないんだから、そうなると攻撃し、銀の雫を潰しえるのは精霊たちかドラゴンかイルゼしか心たりがないわけだし……
でもイルゼはなんか恨みがあるみたいだし、たまたま見つけたとしたら彼女なら吹き飛ばしてもおかしくない。
「で、手掛かりとかも全部吹き飛んじゃったの?」
「いえ、ハイエルフ様の動きを見ている限り地下、あるいは異空間のような物があるらしく潜って行ったのを確認しています。あと幸いな事に人的被害はないようです」
「ふむ」
さすがにイルゼも地下や異空間は吹き飛ばせなかったのか、それともあるから吹き飛ばさなかったのか微妙なところだね。
いや、精霊ならやりかねない。
どちらにせよこのままイルゼに任せているとまずい。
今回は人的被害がたまたま無かったみたいだけど下手したら帝都の半分が手違いで消えかねない!
手元にあるベルを取り鳴らすと扉の前に待機していたらしいメイドが一礼して入ってきた。
「なにか御用でしょうか」
「ジェフ爺とヤークウッドを呼んで」
「承知しました」
再び一礼するとメイドは姿を消す。
ジェフ爺は精霊から貰った魔剣の試し斬りをしたがってたし、ヤークウッドの奴も精霊にやられてばかりだったから鬱憤が溜まってるだろうし暴れるのに丁度いいか。
「とりあえず、帝都が消えなかったらいいかな」
一部消えたけど……