エルフ、脅される
「とりあえずこのコインどうしたらいいんですか?」
「え、換金したらいいんじゃない?」
近くで私が遊んでいたのを見ていた人に聞いてみた。
換金。なるほど、これ、お金に変わるわけなんですね。そう考えたらみんなが目を血走らせながら必死になってるのがよくわかるよね。
この帝国に来てからお金があると幸せってよく人間は言ってますし。エルフ的にはあまり価値がないんですけどね。物々交換がメインですし。
「なるほど。じゃ換金してくださーい」
『さーい』
『これでおかねもちー』
お金持って帰っても森では使えませんけどね。
いや、精霊さん達なら金をすり潰して家具に使うのかもしれない。私は使わないからあげてもいいかも。
あ、コインを渡した人の手が震えてますけどあれ、大丈夫ですか?
「お客様、よくお勝ちですなぁ」
「だれ?」
換金してもらうのを待っていると後ろから声をかけられたので振り向く。
するとそこには確か真っ黒なスーツとかいう服を着たゴツい男の人が立っていた。
うわ、筋肉すごい。なんか力を入れたら服が筋肉で弾け飛んじゃうんじゃない?
スーツもぴちぴちだし。むしろ無理やり押し込んでるような感じがする。
「おっと、挨拶がまだでしたな。オレ、いや私はこのカジノドロップの支配人をしていますザッハートと言います」
「はぁ、そうですか」
知りませんけどね。
あと精霊さん達はどうやらこの人嫌いみたいです。
『うさんくさーい』
『あやしー』
『うそつきのにおいがする』
嘘つきの匂いというものがどんなものか興味がありますね。
そんな嘘つきの匂いを纏っているらしい男性はというと私が見てもわかるくらいに胡散臭い笑顔を浮かべてます。
あと胸元が変に膨らんでるから絶対に武器とか隠し持ってるでしょう? つまりは筋肉は飾りなんですかね?
「それでなにか用ですか?」
「いえ、あなたはこのルーレットでは一人勝ちをしている様子。それではつまらないでしょう? ですのであちらにもっと楽しめるゲームを用意しておりますので是非参加して頂こうかと……」
「いらない。換金まだですか?」
男性の言葉を途中でぶった斬り、私は換金の催促をします。
確かに遊びにきたわけだけどそんなにお金が欲しいわけでもないし。
精霊樹の元に戻ったらお金の使い道なんてないからね。
あっても困らない物かもしれないけど嵩張るからそんなに必要ないし。
そう考えたらますますいらなくない? お金って。
「ちっ、こちらが下手に出たら調子に乗りやがって」
案の定というべきかあっさりと胡散臭い笑みをしまって凶悪そうな人相へと戻った男が懐から分厚い刃のナイフを取り出してきます。
なるほど、膨らみはこのナイフでしたか。
「こっちに来いって言ってんだよ」
ナイフの切っ先を私へと突きつけるようにして脅してきます。
別に何か毒を塗ってあるわけでもないみたいですけど私の周りにいた人たちは顔を青ざめさしながら私から離れていってます。
まあ、こんな筋肉がゴツい人に凄まれたら確かに怖いですよね。
私はこんなナイフよりソラウとか精霊さんとかフィズとかの魔法の方が怖いですから別にナイフを突きつけられても特に恐怖心は湧いてこないんですけどね。
よくよく考えれば脅されるのって初めてかもしれません。初体験です。
でもやられた事はやり返されてもいいって事ですよね? 文句は言わせませんよ?
私にナイフを突きつけた事により、周りの精霊さんがやる気になっているのを見て私は軽くため息を吐き出したのでした。