兵士、死にかける
くそ! どうしてこうなった!
「魔法斉射! 騎士は前に出ろ!」
大声で指示を出しながら俺、レオンは心の中で愚痴を呟いた。
現在、俺率いる騎士と魔法使い、合計五十人の部下は突然現れた世界樹を把握すべく、世界樹らしきものが聳え立つ森、凶悪な魔獣が蔓延る災害の森を進んでいた。
突然現れた世界樹は俺たちが所属するエナハルト帝国の首都からも見て取れるほどに巨大な物であり、誰の目からも見えた。
しかし、場所が悪い。
その世界樹らしき物が見える場所というのが凶悪な魔獣が生息すると言われる災害の森と呼ばれる場所であるからだ。
災害の森の入り口付近は特に問題はない。だが、災害の森の中に、いや、中心に向かっていけばいくほどに現れる魔獣の危険度は増していく。
一度、災害の森から魔獣が姿を見せた事があり、その魔獣一匹が暴れまわったために帝国の砦が壊滅しかかるほどの被害を受けたほどだ。
そのため帝国は災害の森の近くに巨大な壁を作り上げ、耐えず警戒を怠っていないのだ。
そんな危険地域の奥に現れた世界樹らしき物。
まともな判断が下せるのならばしばらくは様子見をするはずだ。なにせあるのが超が付くほどの危険地域。軍を動かしても命がいくつあっても足りないような場所だ。
そう、まともな判断が下せるならばだ。
軍でも危険である所に僅か五十人で向かわせるようなことを普通はしないだろう。
「隊長、回復薬が尽きました! 魔法使いも魔力切れが続出しています!」
「後退だ! 動けない魔法使いは引き摺って動かせ! くそ、あの皇帝、戻ったらぶん殴ってやる!」
悪態をつきながらも部下へと指示を出し、さらに手にしている剣を振るい飛びかかってきた魔獣を斬り払う。
いや、斬る前に魔獣の方が後ろへと飛んだみたいだから浅い。
軽やかな身のこなしで俺の剣を躱したのは村一つなら一匹で潰せるほどの脅威度を誇る魔獣ブラックドッグだ。
名前の通り、黒い犬なわけだがとりあえずデカイ。大きさは三メートルは超えるほどだし口から見える牙に噛まれた日には場所によっては即死で間違いない。
そんな魔獣の群れが俺たちを円を描くように取り囲んでいた。
タチの悪いことにこの魔獣は一匹では行動しない。必ず三匹以上で行動するという嫌なタイプだ。それが三匹なんて数じゃなく群れで、眼に見えるだけでも十匹は見える。
炎が苦手な魔獣だから魔法使い達には牽制として炎の魔法や爆裂魔法を撃たせていたがその魔法使い達の魔力も尽きた。
「この辺が限界か……」
そんな魔獣が蔓延る災害の森に来てもう七日。
すでに部下も二十人はやられている。
すでに騎士達も限界だ。
戦ってはいるがその誰もが悲壮な表情を浮かべている。
こうなれば最後の手段という判断を下し、俺は鎧の胸部分の一部を開き、中から拳大の球体を取り出した。
「隊長!」
俺のその行動を見ていた部下の一人が声を上げる。
「全員に告げる。と言っても各自の意思に任せるが魔獣に一矢報いるぞ!」
俺が手にしたのは任務に向かう騎士や魔法使いに一つずつ与えられる自爆玉だ。
これを自身の魔力を少しでも流し込むことによって周囲に大爆発を引き起こす最終兵器だ。
騎士として使いたくはないが魔獣の腹に収まるくらいならば何体かを道連れにしてやる。
そんな俺の意思に気付いたらしい部下の何人かは俺同様に自爆玉を手に取っていた。
「くたばれ魔獣ども!」
パッパッパパーパッパー!バフっ
自爆玉に魔力を込めようとした瞬間、森の中に間抜けなラッパの音が響き渡ったのだった。