エルフ、放り込む
「そうだね。話っていうのは……」
なんとなく動揺していたような感じだったけど、ヴィはすぐに動揺を隠すようにして微笑んだ。
「あ、話長くなります? だったら椅子欲しいんだけど」
向こうが座ってるのにこっちが立ったまま話を聞くなんてしんどい。
「……レオン、椅子持ってきて」
「ああ、相変わらずというかマイペースなエルフだ」
なんかぶつぶつ言いながらもレオンさんは椅子を持ってきてくれました。
ついでにテーブルも持ってきてくれていつの間にか姿を現したメイドさんがお菓子とお茶を準備してくれてます。
置かれているお菓子を手に取ると、横にいたフィズが興味津々な様子で私の手元にあるお菓子を見ていたので手に取り、開いた口に放り込んであげると幸せそうな顔をしてた。ほっこりします。
「話、してもいい?」
「あ、どうぞ」
面倒だけど仕方がない。あんまり聞きたくないけど。
「まずはクーデターもどきの鎮圧を手伝ってくれてありがとう」
「クーデターもどき?」
あれってクーデターじゃなかったんだ。
「あれくらいのことはよくある事だよ。ボクが皇帝になってからは三ヶ月に一回くらいは起こってるし」
意外とよく起こることらしい。ヴィは笑いながら喋ってるし、もはやイベント扱いにしてる気がする。
いや、それよりもそんな頻繁にクーデターって起こされるようなものなの?
「ヴィって人望ないの?」
「はっきり言うなぁ。まあ、万人受けする皇帝ではないよ?」
「そりゃそうだよ」
みんなに好かれているならクーデターなんて起こらないもんね。
「まあ、正直そろそろ相手にするのも面倒になってきたからさ。ここらで潰しちゃおうかと考えてるんだけどね」
そう告げたヴィの黒い瞳を見た瞬間、身体を悪寒がはしった。
これはあれだ。精霊さんがイーリンスを怒らせた時にイーリンスが発する気配と似てる。
つまりは怒ってる。顔は笑っているけど目が笑ってない。
「それはおいおいでいいんだ。それよりもイルゼは帝国に遊びに来たって解釈でいいのかな?」
「イーリンスから遊びに来ていい手紙がきたと聞いたので。あと寝具買いに来ました」
私の今回の目的はまさにそれだからね!
私が今使ってる寝具はダンジョンコアの力で作り出した高級品なわけだけど私は妥協しない!
この世界には私がまだ知らぬ快眠グッズが溢れているはずなんだから!
「なら帝国内を自由に動けるように許可出しとくよ。ただ、移動するのは首都だけにしといてね」
「あと騒ぎを起こさないでくれると助かる」
なんかレオンさんが失礼な事言ってる。
私は平和主義者、いや睡眠主義者なんだけど……
絶対言っても信じてくれないよね。
「とにかく、改めて帝国にようこそ。イル『ギャァァァァァァァァ!』
『きゃははは』
『にげろにげろー』
ヴィが改めて挨拶をしようとしたタイミングを狙うかのようにして庭の方からヤークウッドらしき悲鳴と精霊さんの笑い声が聞こえてきた。
「ヤークウッド? とかいう人死んでないみたいでよかったね」
悲鳴が聞こえてるってことは生きてるってことだしね。
私はニッコリと笑いながらそう言うとヴィは顔を引きつらせるのだった。