エルフ、借しをつくる
「陛下に仇なすものを見逃せと?」
「一応、同盟関係だった気がするんだけど?」
あれ、不可侵だったっけ?
難しい話は全然覚えてないや。
「とりあえず、私はヴィをどうこうする気はない」
『いつでもやれるしー』
『つきよばかりとおもうなよー?』
精霊さん達の発言が不穏です。闇討ちする気満々だよね。
「……確かに陛下からは何の命令も出ていませんが」
「でしょ?」
私の耳が確かならヴィは初めは止めようとしていたはず。後からは楽しそうに見てただけだったけどね。
「ですがあなたが侵入者であることには変わりないのでは?」
「……それは不幸なすれ違い?」
突撃したのは確かに私達だけど初めに暴れまわってたのは精霊さんです。と言っても信用してもらえないんだろうなぁ。
これ以上戦うのは面倒だし、黒騎士本体を呼び出して戦って貰おうかなぁと考えているとテレサさんは深いため息を一つ吐くと手にしていた大鎌を下ろして構えを解いた。まだなんか圧みたいなのはあるけど。
「陛下」
「なにかな?」
「こちらのエルフの方が敵ではないというのは本当ですか?」
「不可侵条約を結んだエルフだよ」
「では客人ですね」
ようやく圧が消えて一息つける状態になった。
なんか一方的に試されたみたいで腹が立った。
だからヴィ、君には多少は怖い目に合って貰おうか。
私はある物を目に捉えた瞬間、無造作にソラカロンへと魔力を込めてテレサさんの頭上、エルフの眼が捉えた対象に向けて横薙ぎに閃かせ魔力の刃を飛ばした。
「なっ!」
テレサさんが驚いてるけど遅い。
今までのテレサさんとの斬り合いでソラカロンへと魔力の注ぎ込む量は掴んでる。今注ぎ込んだ魔力量は空間を切り裂くほどの力はないけどヴィの周りに張られてる壁、結界くらいは易々と切り裂けるはず。
予想通りに閃いた魔力の刃は壁をあっさりと切り裂きそのまま突き進むと、ヴィの上に突然姿を現したナイフらしき物を持った輩へとぶち当たり、吹き飛ばし壁へと叩きつけた。
「やっぱり壁に当たったから多少は威力が下がった」
『まっぷたつにならなかったね』
『ちょうせいひつよう?』
「いや、いらないから」
これ以上やばい物を作ろうと思案する精霊さん達を諫めながら、ソラカロンへと流していた魔力を止め魔力の刃を消し、腰へと吊るし、唖然としているヴィへと視線を向ける。
「ヴィ、一つ借りですよ?」
「そうだね。助かったよ」
引きつった笑みを浮かべるヴィの姿を見て私も多少は苛つきが落ち着いたのだった。