エルフ、攻める
「いくわよ!」
テレサさんが叫び、床を踏み抜きながらこちらに突き進んできます。なんでそんな楽しそうなのか理解できない。
迫るテレサさんは鎌を振りかぶり、振り下ろす。
エルフの眼で辛うじて見えるその速度は本当に人間なのか疑いたくなる速度だ。
その振り下ろされる大鎌に合わせるように私は手にしたソラカロンと腰の元魔王の剣へと魔力を流す。
そして即座にソラカロンの柄から魔力の白刃が発生し、魔王の剣が消失し、私の身体というか右腕が私の意思などを無視して動き、ソラカロンを振り上げた。
ソラカロンの刃と大鎌とぶつかり、謁見の間に金属がぶつかったような耳障りな音が響き渡る。
「どうやったの? あの体勢から迎撃なんて普通不可能なんだけど? 剣使えないとか言ってなかった?」
大鎌とソラカロンがぶつかり、テレサさんと私の顔がかなり近くにある。そんな中でテレサさんが興味津々に尋ねてきた。
「それにその右腕だけにある氷の鎧みたいなのなに?」
テレサさんの楽しげな瞳が私の右腕を捉えてた。
まぁ、当然だよね。私も使って驚いたけどソラウが使ってる籠手みたいなのが私の右腕を覆ってるんだからさ。
「これは武具精霊だよ」
「武具精霊?」
「武具に宿った精霊のことだよ。元の姿とはちがうけどね!」
右腕へと力をというか魔力を込めるとそれに呼応するように右腕の氷の籠手が動き、ソラカロンを力任せに振り抜き、テレサさんを軽々と吹き飛ばした。
武具精霊召喚は武器や防具に宿った精霊を喚び出す事を指すわけだけど何も精霊化したのを自ら戦わせるだけじゃない。
自分の体に纏って戦うことができる! これが一番の利点だったりする。
部分的に召喚しているとはいえそこは精霊。ちゃんと意思がある。しかも武器の武具精霊の黒騎士なんだから剣の扱いだって私よりも格段に上手なわけで。
私は武器を握った右手の操作を黒騎士へと渡す事で私では到底不可能な剣の技量を手に入れたわけ!
ただ、右手だけだと明らかに身体に不自然な負荷が掛かってる気が……
さっきの動きも体の可動域ギリギリだったし。
というか黒騎士に私の身体全部を預けると私の身体、無事に帰ってくるかどうかもわからないしなぁ。
でも変な動きをされて身体が痛んでも嫌だしなぁ。最悪、エルフの薬でなんとなるとは思うけど……
考えた結果、四肢を黒騎士へと譲る。
これにより私の四肢は氷の防具を見に纏う事になった。
身体だけはエルフの服だけど。
黒騎士が四肢を動かし感触を確かめるかのようにしている間、テレサさんはというと全く動かなかった。
「相手にとって不足なしね!」
この戦闘狂相手に私本来の技量じゃ勝てる気しないし!
凄い目をキラキラさせてるよ!
私の本来の戦い方は近接戦闘じゃないんだよ。召喚したのを前に出して私は後ろからちまちま攻撃するのが私の戦い方なんだよ。
四肢が勝手に動き、テレサさんの繰り出す鎌を構え迎撃。鎌とソラカロンがぶつかり合うたびに私の腕が痺れるほどの衝撃が走る
何回も打ち合いをしているうちにソラカロンへと流す魔力量もなんとなくわかってきた。
今の所は剣としての形を取れてる。ただこれは魔力を一定量流して剣の形を取ってるにすぎない。
黒騎士の腕が再び鎌を押しやりテレサさんを吹き飛ばす。
追撃するように私の身体は動き、テレサさんへと向けてソラカロンを振り下ろした。
そしてそれに合わせるように私はソラカロンへと注いでいた魔力量を一気に増やす。
ソラカロンがワイバーンを吹き飛ばした時のように震える。同時に今まで楽しげにしていたテレサさんの顔色が一気に青白く変わる。
無理やり姿勢を変えて光り輝くソラカロンの斬撃から逃げようとしてる。
その努力が実ったのかテレサさんのピンクの髪を数本切り裂いただけでソラカロンの斬撃は躱す事ができた。そう、斬撃は……
ほっとしたような顔をしているテレサさんはすぐに笑みを浮かべて鎌で攻撃してこようとしていましたが、ソラカロンによる攻撃はまだ終わっていないんですよ。
ソラカロンが振るわれた前方は空間が切り裂かれ、ズレた線のような裂け目が走っていて、テレサさんが鎌を繰り出してきた瞬間に轟音と共に虹色の光がその裂け目から放たれ、テレサさんと謁見の間の半分くらいを飲み込んだのでした。