エルフ、諦める
「なんか暴れてるね」
「そうじゃのう」
轟音が森に鳴り始めてすでに三日
私とソラウはログハウスの外に出て精霊達が暇つぶしに作った木の椅子、ロッキングチェアに座り、揺れながら轟音が響く森を見て呟いていた。
勿論、見ているだけでは暇だから私は森で取った薬草からエルフ印のポーションを作っていたりする。
そして精霊樹の周りにはそんな下位精霊達が元気に飛び回っていて、そのうちの何人かがログハウスに興味を持って同じような物を作ろうと頑張っているらしい。
精霊樹から生まれた精霊達はソラウ曰く下位の精霊、つまりはまだまだ子供のような存在らしくて精霊樹から放たれる魔力を食べながら成長していくらしい。
私とソラウが座っている木の椅子はそんな頑張っている精霊たちが作った物なんだって。
本当はフィズの分の椅子もあったんだけど興奮したフィズが飛び乗ったらあっさりと壊れちゃったんだよね。
せっかく作った物を壊された精霊達が悲鳴を上げてたけどそれ以上に自分の椅子が壊れたことにフィズはさらに大きな悲鳴を上げて、現在ショックで寝込んで精霊達に看病されてたりする。
そんなわけで森からの爆音を聴いてるのは私とソラウ、そしてフィズを看病していない精霊達だったりする。
そんな精霊樹の側では精霊達はまるでお祭りでもあるかのように森から聴こえる爆音に楽しげな声を上げている。
『まほうかな?』
『なぐってるんじゃない?』
『ドッカンバッカン』
音が響くたびに精霊達も喜んでいる。
騒がしいのが好きというか派手なのが好きなのかな?
横のソラウも椅子に座りながらもソワソワとしてるし。時折「我も混ざりたいのぅ」などと物騒極まりない発言も聞こえてくる。
ソラウが参加したらそれは戦いじゃなくて災害になりかねないから是非やめて頂きたい。
そんな中、一際大きな爆音が響いた。
かなり遠くで起こったにも関わらず、その衝撃波が精霊樹の側にいた私たちにも届くくらいだからかなりの威力なのだろう。
その衝撃波で精霊たちも何人か飛ばされていった。楽しそうな声を上げていたので怪我なんてしてないだろうけど。
『さっきのはおおきかったね』
『だね』
『ぼくたちもできるかな?』
『できるできる』
『『『やりにいこう!』』』
「待って待って!」
見た目も考え方も完璧な子供な精霊達を慌てて止めた。
精霊は気まぐれだ。楽しそうであればなんでもやる。それが悪戯レベルなら問題ないんだけどその加減も曖昧だしね。
こちらにとっては笑えないレベルの悪戯が精霊にとっては遊びのレベルだったりするし。
『なーになーに?』
『イルゼもやる?』
『やろうやろう』
精霊達は楽しそうに私の頭上をとびまわっているけどなんで私も一緒にやる前提になってるんだろ?
「私はやらないけどなにするつもり?」
『ぼんばーやる』
『ボンボンドンドンやる!』
擬音しかないけど嫌な予感しかしない!
とりあえずわかるのは戦う気満々ということだけだし。
あんまり精霊がやり過ぎると森がボロボロになる未来しか見えない。
「ソラウ、なんとか止めてよ」
私は横に座るはずのソラウへと声を掛けた。
しかし、振り向いた先の椅子にはソラウの姿は微塵も存在していなかった。いや、いたにはいた。ソラウとそっくりな姿形をした氷の彫刻が椅子に座っていた。
『ソラウ様ならさっきの大きな音がなった時に走っていったよー』
「ソラウゥゥゥ!」
うちの契約精霊は普通の精霊より我慢ができなかったようだ。
はぁ、なんかどっと疲れた。
ため息をついていると私の周りにいる精霊たちがキラキラとした瞳で私を見てる。
これはあれだ。許可を待ってる眼だよね。
高位の精霊であるソラウが行っちゃったから自分達も行けると考えてるんだろうなぁ。
ま、森がボロボロになったら精霊達に頑張って貰えばいいか。
「はぁ、行っていいよ。ただし、森にあんまり被害を出さないようにね?」
『『『はーい』』』
元気よく返事をした精霊達は凄い勢いで飛んで行った。
「もうどうとでもなればいい……」
疲れた私は服を脱ぐと水浴びをするべく残った精霊達と共に現実を忘れるべく泉に飛び込むのだった。