皇帝、呼ぶ
「おい、周りの護衛はどうした」
「護衛ならいつも通り外ですが?」
おそらくはイルゼから届いたであろう声を聞いたボクは近くの文官に護衛の有無を確認する。
基本的にボクは近くに護衛を置かない。なにせ威圧感丸出しの甲冑姿だし、視界に入ると鬱陶しいことこの上ない。
だからボクの直接的な護衛は身軽な服装でも最大の力を発揮できる人物、レオンとかの騎士団長クラスに限られる。
それでもボクのいる部屋の外には甲冑の護衛がいる。いるはずなんだけど、今は嫌な予感しかしない。
この謁見の間はボクが魔力を流さなければ扉は開かない。つまり、ボクが魔力を流さなければ要塞と同じくらいに強固な結界に守られているようなものなんだけど、やり方次第では簡単に破られちゃうし。
「第二騎士団のテレサを呼んで。あれならすぐに来る。あと外の護衛を確認して。武器を持ってるものは武装を許可するから」
声を大にして叫び、謁見の間の扉へと魔力を流す。皆が戸惑いながらも動き出す。部屋で待機していた魔法使いが伝令の魔法を使い、テレサへと連絡を取り、周りにいた貴族や伝達に来ていた騎士は武器を手にした。入り口近くにいた文官は入り口へと駆け寄り、扉を開けた瞬間に背中から剣が生えて血を撒き散らしながら倒れ込み、謁見の間に悲鳴が響いた。
「あー、やっぱり敵襲だよ」
いやぁ、イルゼが言ってた連中、絶対暗殺者だよね。
扉が開いた瞬間に刺されたってことはボクが扉を開けるのを待ち構えていたってことだから護衛は全滅か無力化されてるんだろうなぁ。
扉が開けられたことにより、黒いローブを纏った連中が足音を立てずに謁見の間にあっという間に侵入してきた。
手慣れてるぅ。
というかボクを襲ってきてるのはどっちかなぁ?
お父様か、もしくは神殿派か、いや、大穴で貴族派閥かな?
「陛下を守れ!」
なんて考えてる間に周りの貴族や文官達がボクを守るように暗殺者とボクの間に立ち塞がった。
「くっ、レオン様がいない時に!」
全くだよ!
なんであいつが逃げた時に限って敵襲とかくるかなぁ!
まあ、ボクに奥の手があるからレオンは堂々とサボってるんだろうけど。
「あらぁあらぁ? 陛下、久々に呼ばれたと思いましたが閨のお誘いではなかったのですね」
貴族や文官達が武器を手にして決死の覚悟で戦おうとしているところに何処か緊張感がない声が響いて、続いて謁見の間にピンク色の残像が走った。
続いて宙を切り裂いたりの巨大な刃だ。
それも目に酷く悪そうなショッキングピンクの刃。
「陛下、あなた様の名により第二騎士団テレサ・ヤクリマ御身の前に馳せ参じました」
玉座に座るボクの前には髪もピンク、手に持つ巨大な鎌もピンク、さらには身につけている衣服もピンクと言う非常に目が痛くなるような巨乳の美女が膝を突いて頭を垂れていた。
「うん、相変わらず速いねテレサ。あと目が痛い」
「陛下にはまだこの衣服というか色の良さがわからないようで」
テレサが顔を上げて妖艶に微笑む。いや、わかりたくないかなぁ。ボクが好きなのは黒とかの落ち着いた色合いだし。
「それで陛下、何用で? あとレオンのクズはどちらに?」
「休暇らしいよ」
「あとで首をはねましょう」
うん、目がマジだね。
「とりあえずはこの部屋の邪魔ものを殲滅してくれる? その後にも頼みたいこともあるし」
「ベットのお供でしたら喜んで!」
「いや、違うから……」
テレサは優雅に立ち上がり、振り返るとその細い腕のどこにそんな力があるのか疑問に思うほどに易々と巨大な鎌を頭上で振り回す。
「陛下の命により、虐殺します」
「いや、虐殺はやめて⁉︎ 尋問したいし!」
ボクの声が届いたかどうかわからないままテレサの姿が搔き消え、黒ローブの一人の首が血の線を描きながら宙を舞った。