エルフ、慌てる
「なんか騒がしいね」
「きゅー」
フィズを撫でながらエルフ耳へと意識を集中させて周りの音を拾ってるとやたらと爆発音が耳に入る。
それも精霊さん達が突っ込んでいった場所以外で。
精霊さん達には人は殺さないように言っておいたから良くて半殺しくらいだと思う。それに魔法もかなり力を抑えて暴れているみたい。
私の魔力を帯びた風を城内へと注いでるから城内の動いてるものの様子は手に取るようにわかる。エルフ耳もピコピコと動かしてるから殆ど死角はない。
でもさすがに生きてるか死んでるかまではすぐにはわからないんだよね。
だから死んでる人はいないはず。多分、きっと、おそらく、そうであってほしい。
『おちゃうまぁ』
『おかしうまぁ』
私と共に残った精霊さん達はというとどこからか取り出したお茶とお菓子を嗜みながら城下を見下ろして寛いでるし。
いや、確かに眺めはいいけど、全く緊張感がないよね?
緊張感がないのはまだ意識が戻らないアンとトロワも同じだけど。
それよりも気になるのは暴れ回る精霊さん達の動きに便乗するように動く人達だ。
感知している限りではこの城にいる人の行動パターンは悲鳴を上げて逃げ回るか、統率が取れた動きで精霊さん達か私がいる方に向かってくるかの二通りだ。
でもなんかそれ以外の動きをしてるのがいる。
まるで人目を忍ぶようにして動いてるし、そいつらが行く先々で爆発が起こってる。
これはあれかな? 破壊工作ってやつ?
ちょっと楽しそうだから観察してみると適当に爆発させているわけではないみたい。人が集まりそうな場所や爆発したら連鎖的にどこかが壊れるような場所ばかり狙ってる。
「なんであんなことしてるんだろ?」
『なになに?』
『たのしいこと?』
首を傾げながら考えていると口に出した疑問に興味を持ったらしい精霊さん達が集まってくる。
「なんか城壊してる人がいるんだけど理由がわからないの」
『くーでたーとか?』
『あんさつとか?』
なるほど、と精霊さん達の言葉に私は納得してしまう。
確かに精霊さん達の言うようにクーデターや暗殺などを行うなら精霊さん達の予期せぬ襲撃に慌てふためいているこの城の今の状況は便乗するに相応しい場なのかもしれない。
「クーデターはなんか違う気がする」
確か本で読んだクーデターは民が立ち上がるみたいな感じで書いてあった気がする。
あんな職人みたいにせっせと隠れながら爆破を行ってるのが威勢よく立ち上がってる民には見えないし。
「そうなると」
『あんさつー?』
一番可能性がありそう。
なんか城の中心部分の人が集まってる場所に向かって隠れながら走ってる集団もいるみたいだし。
多分、ここはヴィがいる場所っぽい。
「皇帝って一番偉い人なんだよね? 死んだらどうなるんだろ」
『くにばらばら』
『たべるのにこまる』
『せんそうはっせい』
『おいえそうどう?』
「大変だ!」
ここでヴィに死なれたら私の帝国で遊ぼう! の予定が無くなっちゃう!
「精霊さん、付いてきて! フィズ、二人を任せたよ」
「きゅう!」
『わーい』
『あそぼあそぼ』
フィズの頼もしい鳴き声を背に受けつつ、楽しそうな精霊さん達を引き連れて私は飛び降りたのだった。