皇帝、痛くなる
ああ、どうしてこうなった!
次々に挙げられる報告にボクは頭が痛くなるよ。
ここが謁見の間で他に貴族とかがいなかったら周りに当たり散らしてただろうね!
なにせ、朝から謎の飛行物体に防衛線は突破される。それを迎撃に出たワイバーン騎士団も軽い壊滅状態、しかも一部の山が吹き飛んだ。挙げ句の果てが王城への賊の侵入!
これ全部イルゼだよね⁉︎
いや、これイルゼじゃなかったら逆にやばい状況だよ?
イルゼと同格の存在がいるとしてそれに牙をむけられでもしたら帝国なんて一瞬で終わるよ?
「陛下、賊が別棟の連絡橋を占拠してます」
「陛下、賊が空から魔法を乱射してきて、騎士が先に進めません」
「陛下、賊がお菓子を要求してきています」
陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下
「うっさい!」
あまりの煩さにボクはテーブルへと拳を叩きつけて大きな音を立てた。
それにより謁見の間が一瞬にして静かになった。
た、叩きつけた手が痛い。
次から次へと陛下と呼んで! 本当にうっさい!
「まずは賊よ! 賊の特徴は⁉︎」
「ち、小さな人型で魔法を乱射していると」
「それは精霊! 手を出さない事! 次!」
「騎士が身動きが取れなくなってます」
「回復系の魔法使いを派遣しなさい。あと被害が広がらないように騎士は撤退。次!」
「お、お菓子を要求されていますが」
「大広間にお菓子を山みたいに積み上げて。多分、精霊がよってくるから友好的に接しなさい」
あの精霊達ならお菓子を積んどけば来る気がする。いや、絶対来る。
「あとは?」
「別館の天辺を陣取っている賊はどう対応しましょう?」
「ん? 精霊はたった今友好的に接しろっていったよね?」
今言ったことも頭から抜けてるの? 鳥頭なの?
ボクが若干睨みつけながら言うと睨まれた貴族は慌てて首を振っていた。
「い、いえ! 忘れているわけではございません! ただ、あの別館にいるのは精霊とエルフが三人、そして子竜という報告が上がってきていますので」
「なるほどね」
確かに、それなら聞いてきても仕方がないか。それにそっちは十中八九イルゼだろう。まだ精霊と一緒に暴れてないだけマシだ。
「そっちには騎士じゃなくて使者を送って。くれぐれも、くれぐれも怒らせないように。怒らせたら物理的に首が飛ぶからね!」
「陛下、相手はたかだがエルフです。武力で制圧すればいいのでは?」
「ほぅ? 精霊を制圧すらできぬ騎士で精霊より高位の存在であるエンシェントエルフを制圧できるとはよく言うものだね」
軽い発言した貴族を睨みつけるとその貴族は身体を震わせる。
ボクに睨まれたくらいでビビるような奴では無理だろうがね。
「まあ、死にたいと言うなら止めないよ?」
「わ、わかりました」
ビビってるけどこれは仕方ない。
ボクが怒る前にエンシェントエルフのイルゼを怒らすとどうなるかわからないしね。
よくて対応した奴が死ぬ。最悪なら帝国が滅ぶ。
ついでにボクも巻き込まれて死ぬ。
それは嫌だなぁ。
「まあ、下手に刺激せずに話があるといえばイルゼなら来てくれるよ。あとレオンはどこ行ったの?」
先ほどから姿を消している最強の騎士を室内へ視線を巡らして探すけど見えない。
「そ、それが、溜まった有給を使うと言って先ほど出て行かれました」
「逃げやがった!」
涙が出るほど優しい友人の素早い行動に苛立ったボクは無意識に作った拳をテーブルへと振り下ろして叫んでいた。
「へ、陛下大変です」
「今度は何!」
「城の一角が吹き飛びました!」
「はぁぁぁ⁉︎」
なに? この城には爆弾でも仕掛けられてるの?
頭に疑問符を浮かべていると、不意にどこからか風が吹いた。
『なんかその部屋の周りに怪しげな人が沢山いますけど、大丈夫です?』
姿が見えないはずのイルゼの声が室内に響いた。




