エルフ、駆ける
快調に精霊さん達と私の空飛ぶ絨毯は空を舞う。……わけではなく、周りは爆音と衝撃が凄いことになってる。
『すごーい』
『しゅうちゅうほうかだぁ』
地上から飛んでくる様々な魔法を私は空飛ぶ絨毯を操り躱し、精霊さん達も軽やかに旋回して躱していました。
フィズだけは魔法がぶつかろうとなんだろうと関係ないと言わんばかりに真っ直ぐに進んでいます。
まあ、魔法が効かないような結界を張ってるらしいですし問題ないみたい。実際フィズにぶつかった魔法は跡形もなく消えてるし。
「凄い数の魔法ね」
空飛ぶ絨毯の機動力にはついてはこれてないけど飛んでくる魔法の数が尋常じゃない。
それでも精霊さん達が反撃したらすぐ沈黙しそうなんですが、精霊さん達は楽しいからか回避してます。
「でも進めないんですよね」
魔力を込めて超加速した空飛ぶ絨毯で帝国まですぐにいけるかと思ってたんですけどねぇ。
順調だったのは森と帝国の境界であった砦を飛び越えた所までだった。
砦を超えてからというもの、地上から凄まじい数の魔法が私達を狙ってきたのです。
風の壁で一応守ってはいたので、それなりの攻撃は防げます。ですが飛んでくる魔法の数が多すぎるので風の壁で防げても進む力は削がれて進めず、強行突破は出来なかったんですよね。
そんなわけで魔法を躱しながら進むわけなんですがこれがまた進まない。
飛んでくる魔法の数が多いから避けれる場所は限られてるし、小回りは効いても精霊さん達よりは大きい空飛ぶ絨毯は完璧には躱しきれてないわけで。
当たっても風の壁で防げるけど明らかに魔法を完璧に躱している精霊さんや魔法を無効化して直進しているフィズの方が速い。
『やったーぬいたー』
『ぼくらのほうがはやーい』
「きゅうきゅう!」
「ぐぬぬぬ」
私より僅かに前に出た精霊さんやフィズが後ろを振り返り私に勝ち誇ったような視線を向けてきます。
決して! 私が負けてるわけじゃない! 小回りが効く精霊さん達が有利なだけなはず。
このまま負けるというのはなんだか嫌ですし……
「精霊さん精霊さん」
『んー?』
『なーに?』
競争には参加せずに私の周りを飛んでたり、空飛ぶ絨毯の上でお菓子やお茶を飲んだりして過ごしていた精霊さん達へと声を掛けます。
「空飛ぶ絨毯、操縦してみません?」
『え、いいの⁉︎』
『ほんとー?』
予想通り、精霊さん達は興味津々です。
計画通り。
「どうぞ」
『やたー!』
『まけないぞー』
私が宝石の嵌め込まれた場所を譲ると精霊さん達が、わらわらと近寄ってきています。
「あ、アンとトロワは落としちゃダメだよ?」
『あ』
『あぶないあぶない』
『まほうでこていしておこう』
よし、これで気絶したアンとトロワの安全は多分確保できたはず!
精霊さん達が空飛ぶ絨毯で遊び始める気配を感じた私は空飛ぶ絨毯から飛び降りて宙へと身を躍らせる。
頭から地面に向かい落下し、風を感じていた私は履いているブーツへと魔力を流し、体を回転させると何もない宙を踏むようにして足を出す。
私が足を踏み出した瞬間、ブーツから風の魔力が噴出し、落下が静止。それどころか何もないはずの空で私は地面があるかのように普通に駆ける。
『あ、ずるーい』
『そっちのほうがいい』
後ろから精霊さん達の抗議の声が聞こえるけどそんな声は置き去りにして私は空を駆ける。
私の身に付ける空飛ぶブーツは厳密には空を飛んでるわけじゃない。
魔力を込めたブーツで足を踏み出した場所に何もなければそこに足場を作るという代物みたい。
これはかなり有用。しかも魔力を込めたら込め多分だけ速く走れる。これは地上でも有効だったんだよね。
「これで負けないよ!」
『むむ』
「きゅ!」
魔法を避けながら前を行く精霊さんやフィズと同様に魔法を躱しながら空を駆けながら迫る私は楽しげに笑ったのでした。