エルフ、砕かれる
「それで、緊急事態って何?」
投げつけられた服をいそいそと着ながらシーツが絡まり身動きが取れないフィズを助けようとしているソラウへと尋ねる。
心なしか窓の外に見える精霊樹付近にいる精霊達がソワソワしているような感じがするけど……
「うむ、緊急事態とは言ってみたが実際の所そこまで緊急というわけでもない」
「どういう事?」
ようやく絡まっていたシーツが取れたのかフィズが顔を出し、体をほぐすように羽根を広げて動かしていた。
そんな自分が救出したフィズを満足気に見ていたソラウが私へと視線を合わせてきた。
「うむ、どうやら人間が森の中をうろついているらしいぞ。それを精霊達が教えてくれたんじゃ」
「え、人間きたの? やった」
これで服と交換ができるね。
流石に服や下着が一着ずつしかないのは問題だからね。
体の汚れは前にある泉で水浴びすればいいだけのことなんだけど服は汚れて洗ったら替えがないからなぁ。
また裸で過ごさなくちゃいけないとこだったよ。
「いや、あまり良い状況ではないぞ?」
「なんでよ? そりゃあんまり他の人と関わりたくはないけど必要な物を手に入れるためには交流は必要だよ?」
私の目的はぐーたらして過ごすことなわけで親睦を深めたいわけじゃない。
でも私一人で出来る事ならまだしも出来ないこともあるからやむを得ず頼るという形になるんだよね。
「まあ、普通ならばそうじゃろうな。普通なら」
なんだか含みがあるような言い方だなぁ。
「まあ、我は人間の普通というのよくわからんが精霊達が言うには鎧やら武器を身に付けた人間が四、五十人らしいんじゃが、それは普通なのか?」
なんですと?
「精霊達が言うには殺気立っとるらしいし穏便にいくのか?」
「聞いてるだけじゃ森にピクニックに来たって感じじゃなさそうね」
エルフの村に来る人間の商人さんも確かに護衛は連れてたけど二、三人と少なかった気がするし、そんなに大量の人間で移動する必要はないと思うんだけど……
「た、たまたまこの近くを通るだけなんじゃないかな?」
「どうじゃろうなぁ。この森にそんな魅力的な物があるのかというとよくわからんからのう」
ソラウは気づいてないみたいだけどこの森って少し歩けば薬草が沢山あるんだけどね。しかも中には希少なものも多いし。薬草の知識を持つエルフからしたら宝物庫と同じくらい価値があるんだけど……
人間もきっとそれを目当てで来てるんだよね! そうに違いないよね!
『まっすぐこっちに来るよ』
『まっすぐまっすぐ』
私の淡い希望は私の周りで飛び回る小人サイズの精霊達の囁きにあっさりと砕かれたのだった。