エルフ、競う
『はやーい』
『ぱなーい』
『『『キャハハハハハハハハハハ!』』』
「「ギャァァァァァァァァ!」」
「いや、確かに速いけど! 二人落ちたよ⁉︎」
空飛ぶ絨毯が私の魔力を受けて凄まじい加速をした瞬間、風の壁など容易く突き破ったせいでアン、トロワ、そしてフィズが空飛ぶ絨毯から落ちかけた。というかアンとトロワは凄い悲鳴を上げながら完全に落ちた。
フィズも落ちたけどすぐに翼を広げて飛翔すると空飛ぶ絨毯と並ぶように飛んでいた。二人を助けるような気配はなかった。
ちょっ⁉︎ この高さで落ちたら死……ぬわけでもないか。私なら大丈夫だし。
「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬたすけてぇぇぇぇぇぇ!」
「おかあさん、おとうさん、先に死ぬ私をお許しくださいぃぃぃぃ」
ってなんで風魔法使わないの⁉︎
多少は落下速度を落とさないと死んじゃうじゃん⁉︎
『あ、しんだかな?』
『ふつうならしぬし』
『えるふだしなぁ』
「きゅう」
君達凄い余裕だね⁉︎
しかも助ける気なんて全くないよね⁉︎
助けるのは私しかいない! そう判断した私は空飛ぶ絨毯を急旋回させると落下していく二人に向かって再度加速する。
風の壁を作ってもある程度の速度を出すと壊れる。だから更に魔力を込めると風の壁は壊れることなく呼吸も楽になった。
「キャッチ!」
落下していた二人の足を両手で掴んだ。とりあえずはこれで頭から落下してミンチになるなんてことは免れたわけなんだけど……
「お、重い……」
流石に片手で一人ずつを持つのはすごく辛い!
なにせ私は肉体派じゃないない引き篭りエルフなわけだから余計に辛い!
「せ、精霊さんたすけてぇ」
『はーい』
『まかせてぇ』
たまらず助けを求めると精霊さん達は快諾して私の掴んでいるアンとトロワを持ち上げて空飛ぶ絨毯の上に寝かせてくれた。
空飛ぶ絨毯の上に寝かされた二人はというと、うん、あれよ。女の子としてはやっちゃいけない顔になっちゃってるね。白目剥いてるし、泡吹いてるし……これ、もしかしたら下着も濡れてたりするんじゃないかなぁ。
『なんかしめってる?』
『ぬれぬれ?』
「言わないであげて……」
余程怖かったんだろうなぁ。
とりあえずは精霊さんに頼んで綺麗にした後で乾かしておいてもらおう。
「でも二人が気絶したのはいいかもしれません」
「きゅ?」
何が? と言わんばかりにフィスが首を傾げています。そんなフィズの頭を撫でてあげるとくすぐったそうにしてます。
「二人が気絶している間に、空飛ぶ絨毯の速度を全開にして帝国に行っちゃいましょう」
『『なるほどー』』
二人はもう落とさないように風で空飛ぶ絨毯で固定。さらに空飛ぶ絨毯の周りを風の壁で覆って準備完了っと。
『じゃ、いるぜー』
『きょうそうね』
「負けませんよ」
「きゅー」
「よーいどん!」
私の掛け声と同時に精霊さん達とフィズが凄い速さで飛び出して行きます。
それを見て私も空飛ぶ絨毯へと一気に魔力を注ぎ込みます。
そして空飛ぶ絨毯は精霊さんやフィズ達よりも凄まじい加速で追い抜き、あっという間に置き去りにしました。
「おっさきー」
遥か後方に見える精霊さん達へ振り返り、私は勝利を確信します。
『いるぜー』
『はんたいはんたい』
『しんろぎゃくー』
……慌てて進路を反転させました。
わ、わざとじゃないです!