皇帝、疲れる
「平和だねぇ」
「平和だな」
エナハルト帝国、王城の執務室でボク、ヴィンラントと第一騎士団長のレオンは休憩がてらにお茶を飲んでいた。
皇帝は地味に仕事が多いんだよね。
まだボクが若いからという理由からクーデターを起こそうとする貴族派も無駄に多いし。ボンクラのお父様からの暗殺者も日常茶飯事。
あと神こそ絶対の神殿派なんかも無駄に活気ついてたりしてる。
そういう連中に限って騎士団を取り込もうとするから笑えるんだけどね。
でもボクはこの帝国で実力主義を掲げてる。有能な人材を遊ばせるなんて無駄だしね。
そういう意味では騎士団は叩き上げの人が多く、なぜか取り上げてくれたと考えているのかボクに高い忠誠を捧げてくれる人が多い。
文官の方も無能な貴族よりも有能な平民を起用している方が多いから支持が高い。
つまり王都内だけで言えばクーデターなんて企んだ時点でバレちゃうんだよ。
「それでもクーデターが減らないのはやっぱりボクが舐められてるからかな?」
「やり方が緩いからだろ? 普通クーデターを起こした連中は一族全部が打首だが領地取り上げで済ませてるしな」
「まだ未然だったし?」
だって連絡くるの早いからね。
クーデターが起こる前に潰されてるし。
「それでも皇帝に弓を引いたんだ。殺しておいた方があとが楽だろ?」
「やだやだ、騎士は考え方が殺伐としてさ」
貴族の連中ももう少し頭を使えばいいのに。
クーデターを起こす暇があれば領地をちゃんと面倒みなよ。
「今のとこは情報は来てないんでしょ?」
「ああ、バカが減ったのはいいことだ。準備をしてる馬鹿はいるがな」
「これでイルゼを帝国に呼べるね」
「……本当に呼ぶ気か?」
「もちろん」
なにせ友好的にしときたいしね。
帝国が大陸最強といっても災害の森、いや、いまはアヴェイロンか。アヴェイロンの魔獣や精霊が相手では善戦はできても勝つことなんてできないだろうしね。
そもそもの話、エンシェントエルフやエンシェントドラゴン、さらには大精霊なんてのが前に出てきたら一瞬で壊滅するだろうしね。
「すでに遊びにきてねって手紙も送っておいたし」
「何も起こらないといいがな」
「いや、起こるんじゃないかなぁ」
「おい!」
レオンが睨んでくるけどボクは笑うだけだ。
ボクはイルゼを客人として帝国に招くわけだけど別に行動の自由を奪う気はない。というか奪えないだろうし。
イルゼのあの容姿で王都を歩けばいろんな輩の目に入るだろうし、色々と動くと思うんだよね。
そこを色々一網打尽とさせてもらおう。
「またなんか企んでるのか……」
「失礼な。せっかく来るんだから楽しんで貰おうと考えてただけさ」
ボクの方にも利益があるしね。
『緊急事態! 緊急事態!』
口元を歪めて笑っていると通信用の魔導具から緊迫した声が響いてきた。
それを聞いたレオンが表情を引き締め、腰の聖剣へと手を伸ばしていた。
「どうした」
レオンが周囲を警戒しているのでボクは状況を尋ねる。
緊急事態なんてアヴェイロン関連以外ではほぼ聞かない言葉だから多分イルゼ関連なんだろうけど……
『アヴェイロン方面より高速で接近してくる魔力反応があります! 魔力の大きさからして攻撃魔法ではないと思われますが……』
「魔法騎士団をすぐ動かして迎撃して」
空を飛ぶ魔獣だとしたら帝国内に入られたら大混乱が起こる!
なんとしても迎撃しなくちゃ。
『すでに動かしています! 迎撃も開始していますが相手の機動力が高すぎて…… あ、第一防衛ラインが突破されました!』
「レオン……」
「……言うな。なんとなくだが何が来てるか分かったから」
多分、レオンの瞳に映ったボクの顔は生気のない顔をしていただろうし、瞳はどんよりと沈んでいただろうね。
「あー、とりあえず、全戦力を空中迎撃に向かわせて」
『り、了解しました』
無駄だと思うけどね……
なんかいきなり疲れるよ。