高位精霊、ビビる
『あれはヤバイわ』
「そんなにですか?」
「ニコニコだよ?」
『よく見なさい。体から出てる魔力の量もヤバイわ』
精霊達からのよくわからない救援要請のようなものを受けてわたしは行きたく無いけど部屋の外に出ることにした。
そして即座に感じたのは悪寒ね。
城の中に漂う風がすごく冷たいわ。
体に走る悪寒に耐えながら先へと進んでいくと、必死に逃げている精霊達が目に入った。そしてそれを覆うよう飛んでいる風の網も。
『びゃぁぁぁ!』
『たすけてー』
『このあみとれないー』
網に捕まった精霊達が必死にもがいているけどまったく逃げ出せる様子はない。
なんかナイフみたいなの振り回してるけどそれでも切れてない。
そんな精霊達を捕獲した網を引き摺るようにしてイルゼが寒気がするほどの満面の笑みで引っ張っているんだから恐怖するなという方が難しいわ。
だってイルゼの体から放たれてる魔力もヤバいんだもの。
多分無意識なんだろうけど普通の城だったらあんな魔力量を放たれ続けたらすぐに壊れるわよ。
精霊樹があるこの城、いや、ダンジョンコアがから作り出された城だからこそ放出されるあの魔力に耐えれているんじゃないかしら?
『とりあえず、精霊達が何かやらかしたのは確定ね』
「それは同意しますがいいんですか?」
『あんなわからない状況に首を突っ込むなんて自殺しににいくようなものよ』
精霊は死んだりしないから自殺なんてないんだけど……
それでも精霊界に強制送還はいやだわ。
「ですがイルゼ様は何をするつもりなんでしょう?」
「わからないなぁ。全部の精霊を捕まえているわけじゃないみたい」
アンとトロワと共に気配を消しながら様子を観察しているとイルゼはまるで精霊達がいる場所がわかっているかのように城の中を移動していた。
そしてイルゼが風の網で捕まえている精霊と捕まえない精霊がいるのがわかる。けど差がわからない。
捕まった精霊が必死に逃げようとしているのくらいしかわからない。
「これで全部かな?」
網の中でもがいている精霊は全部で十人ほど。武器を振り回している精霊もいるけどまったく抜け出せる様子はない。
大半の精霊は諦めたような眼をしてるしかなり強固な魔法なんでしょうね。
『いるぜー』
『はんせいしてるー』
『しゃざいするー』
「謝罪?」
精霊達の言葉に反応したらしいイルゼが網で捕まっている精霊達へと視線を向ける。すると精霊達がビクリと体を震わせていた。
こっちからは見えないけどイルゼは相当怖い顔をしているのかもしれない。
「謝罪するということは悪いことをしたという自覚はあるんですね?」
『えーと……』
「それとも謝ればいいやなんて軽い気持ちから?」
『えー』
怖い、とりあえず顔が見れなくてよかったと感じるくらいに怖い。
「イーリンス様、助けなくていいのですか?」
『あの状況に割り込むの? わたしは嫌だわ』
今は制裁対象があの精霊達に向いているのにわざわざそこに自分も制裁対象になりにいく気はない。
べ、別にビビってるわけじゃないわよ?
「さ、罰受けてもらいますね」
『ギャァァァァァァァァ! やだぁぁぁぁぁ!』
ジタバタと暴れる精霊達の抵抗などまったく無視してイルゼは網で捕縛している精霊達を引き摺って城の外へと移動を開始したのだった。
その後数時間の間、城の外から精霊達の悲鳴が聞こえてきたのだけど怖くて見に行けなかったわ。