エルフ、落とされる
「ん……」
珍しく誰にも起こされないで目が覚めた。と言っても窓から見える太陽の高さからしてとっくの昔に朝と呼べる時間は過ぎてる気がする。
とりあえず体を起こし、軽く伸びをする。
やはりいい睡眠には寝具は不可欠みたい。よく寝た気はするけどまだ寝たりない。服の問題が解決したら寝具について真剣に考えなくちゃ。
ぐーたら道は険しい道のりだ。
「とりあえずもう一回寝よ」
ベッドに横になりシーツをお腹へと掛けて目を閉じる。
程なくしてウトウトとし始めて眠りの世界に旅立とう……
「きゅう!」
とした私だったけど扉を開けて入ってきたらしいフィズの声に微睡んでいた意識が浮上してしまった。
起きてたまるか! 私はまだ寝ときたいんだ。エルフは一日二十三時間寝ないと死んじゃうんだ!
そう決意した私はシーツを頭から被るようにして徹底抗戦の構えをとる。
「きゅう、きゅきゅう」
フィズの声が耳元から聞こえてくる。しきりに頭を擦り付けてくるようにして私を起こそうとしてくる。
嫌だ。私はまだ寝るんだい。
そう決意して頭から被ったシーツをしっかりと握った私だったが突然放り出されたかのように体が転がった。
「な、なに⁉︎」
「きゅ⁉︎」
いきなり転がった事に驚いて変な声が出た。次に来たのは背中への衝撃。
別にそんなに痛くはなかったので即座に起き上がりベッドを見る。
そして目に入ってきた光景を見て私は驚いた。
ベッドが傾いてた。
それだけなら驚かない。
フィズがやった様子はない。まずベッドの脚が折れてない。これは急に片方の脚の部分が短くなったのかしら? そもそもフィズは私と一緒にベッドを転がり落ちたみたいでシーツにくるまってボールみたいになって鳴いてる。
「きゅう!きゅう!」
なんか必死にもがいてるけどどんどん絡まって身動きが取れないみたい。可愛いからしばらく放っておこう。
そうしてベッドをまじまじと眺めていたら脚の短くなっていた部分がゆっくりと長さを戻すように伸びていた。
「ベッドが勝手に傾いた?」
あるがままを口にするならそう言わざる得ない。
だってそうとしか考えられないような現象が今、目の前で起こっているのだから!
こんな不思議な現象が起こるのか、凄いね!
「小粒、いい加減にイルゼを起こせたのか? もう一週間も寝とるんじゃいい加減にして起こせ! それに非常事態じゃぞ」
私がベッドを眺めていると背後からソラウの声が聞こえてきた。
ソラウにも早くこの勝手に傾く不思議なベッドを見てもらわなくちゃ!
「見てソラウ! このベッド勝手に傾くんだよ⁉︎」
「とりあえず服を着んか服を!」
背後へ振り返り興奮しながらベッドを指差す私に対してソラウは極めて冷静に脱ぎ散らかしていた服をかき集めてわたしの顔面にぶつけてきた。
さすがは氷の精霊、クールだね!