精霊、黙る
「イーリンスいる?」
イーリンスの部屋の前に着いた私は尋ねながら扉を開いた。
『あなた、ノックをしなさいといつも言ってるでしょ?』
中にいたイーリンスはというと椅子に座り、カップを片手に何か書類を読んでるみたい。
あ、仕事中だったのかな? 悪い事をしたかもしれない。
『それでなんの用?』
手にしていた書類をあっさりとテーブルの上に放り投げたイーリンスは手にしていたカップに口をつけながら尋ねてきた。
「あれ、仕事中じゃないの?」
『仕事、いえ、仕事というか厄介ごとというか……』
私が聞き返すとイーリンスの瞳がどんよりと曇った。ついでに頭でも痛いのか頭を抱えてる。
え、なに? なにがあったの?
『まあ、なんでもないわ』
なんでもないようには見えないけど……
ちょっと心配そうに見ているとイーリンスはテーブルの上にある鈴を手に取り振るう。
チリンという軽やかな音が鳴り響いて僅かな間を開け、イーリンスの部屋の外が騒がしくなり、大きな音と共に扉が開け放たれた。
『はいはーい』
『あそぶ? あそぶ?』
『あたらしいまほうかんがえたー』
なんか精霊さん達がいっぱい現れました⁉︎
そんな慌ただしい精霊さん達にイーリンスはというと、
『静かになさい。また締めあげまわよ?』
そう静かに告げた。
「締めあげますわよ」そのたった一言の言葉で精霊さん達はピタリと声を出すのを止めてたし、暴れずに静かになってた。
それだけでイーリンスの「締めあげますよ」に何をされるのか想像するのすら怖い。
静かになった精霊さん達を見てイーリンスは「よろしい」と満足げに頷いてた。
なんかイーリンスができる精霊みたいだよ!
『あなた達にはちょっと確認してほしい事があるのよ』
『かくにーん?』
『しょるいしごとはむり!』
『せんたくとかそうじもむりだよ』
書類はともかく洗濯と掃除はできるようになってほしいかなぁ。そうじゃないとアンとトロワは延々と掃除しそうだし。
『あなた達にそんな無理なことを頼む気は微塵もないわ。あと期待もしてない』
『『『えー、きたいもなし⁉︎』』』
イーリンスがバッサリと切り捨てた。
うん、だって君たち、書類仕事を手伝うとか言って紙飛行機にして外に飛ばしてたしね? どこにも信頼されるような要素ないよね?
『やってもらう事は簡単なことよ。ソラウ様達が向かった場所で何があったのかを調べてきてほしいの』
『なにかって?』
『なになに?』
『わかれば苦労はしないわ』
イーリンスが深く椅子にもたれながらため息を吐いた。
『なにかあったのは確定。それも精霊界からの手紙が届く位の事が』
「あ、それって私とソラウの繋がりが希薄になってるのと関係してる?」
『……どういうことかしら?』
「なんか伝わりにくいみたいな感じ?」
確信はないけど多分、ソラウと私の繋がりが薄くなってる感じがするんだよね。
例えるなら今まで横で話をしてたのに今は壁越しで話をしてるような伝わりにくさ。それを今感じてるんだよね。ついでに言うと黒騎士の方はなんかバッサリと切れてる。
『それはそうだよ。パイセンは今精霊界に謹慎中だからね』
後ろから聞いたことのない声が聞こえたので振り返ってみれば顔の半分を白く泣いたような顔が描かれている仮面を付けた左右で白と黒に分かれている奇抜なドレスを着た人物が扉にもたれ掛かっていた。