大精霊、キレる
『『『ムギャァァァァァ!』』』
精霊達の間抜けな悲鳴と共にカラミティは身体のあちこちを崩壊させながら宙をクルクルと回り、森の奥へと消えていった。
フォートレススケルトンの拳と魔力噴射に回転を加えた精霊達の操縦するカラミティの捨て身の突撃のぶつかり合い。
結果だけで言えば互角じゃった。
いや、破壊された比率だけで言えばフォートレススケルトンより遥かに小さいカラミティのほうが破損箇所は大きいじゃろな。
対してフォートレススケルトンはというと腕の部分がそれなりに壊れてはおるようじゃが、カラミティのように吹き飛ばされたわけでもないし、さらに言うならまだまだ普通に動いておる。
『簡易型とか言っておったし、従来のオリハルコンの強度ではなかったんじゃろな』
そこいらに転がるカラミティの残骸は確かにオリハルコン特有の虹色の輝きを放ってはいるが本来のオリハルコンより輝きが鈍い。
まあ、そうじゃよな。超希少な金属であるオリハルコンを精霊達が即席で作れるはずがない。
精霊樹にあるカラミティのオリハルコンは精霊達が精霊樹の魔力をふんだんに使い時間を掛けて作った物じゃし、あの純度の物を精霊樹から離れた場所で直ぐに作れる物じゃないからのう。
『言うならばオリハルコンもどきじゃな』
それでもかなりの数の精霊が一斉に魔力を込めたんじゃろう。オリハルコンまでは行かなくともかなりの硬度があったみたいじゃ。
『それでもアレには敵わなかったっと⁉︎』
目の前のフォートレススケルトンを見上げようとした我に影が落ちる。そして目線を上へと向けるとそこには拳を振り下ろそうとしておる獅子族がおった。
『にょぉ⁉︎』
慌てて振り下ろされる拳を躱す。
魔力が込められておるらしい薄く輝く拳をギリギリで躱すと、目標を見失ったらしい拳は地面を叩き、そして轟音と共に軽々と砕きよった。
「ちっ! 外したか」
『いきなりとは卑怯じゃのう』
いかに我でも魔力が込められた拳で殴られたら痛い。
弱い攻撃ならば氷の護りが自動的に守ってくれるが、それなりの攻撃ならば護りを貫通してくるし。
この獅子族は魔力は低いがそれを補うくらいの筋力がありそうじゃしな。
「あの数が多い精霊共は粗方サロメディスが追い払ってくれてるからな。魔王様もお菓子に夢中、あとは大元のお前だけだ」
『んん、我を馬鹿にしとるのか?』
数が多い小精霊共の方が脅威に感じられるのは心外じゃな。
「まさか、お前は明らかにさっきまでいた精霊達より強い。だが強い奴でも数で押せば勝てる!」
『発想が卑怯じゃのう!』
「いざ、豪王ターナトス、一対多数で勝負!」
そんな卑怯な宣言をしてきたターナトスの声に呼応する様に奴の背後からわらわらと黒いスケルトンが大量に姿を現しよった。
ゲ、あれ魔法が効きにくいスケルトンじゃないかのう?
精霊達の魔法はあまり効かんかったようじゃが我の魔法なら多少は効くはずじゃ。
『なら先手必勝じゃ!』
掌をスケルトンの群れへと向かい突き出し魔力を込め、放つ。
まさにその瞬間に背中がゾワっとする程の悪寒が走った。
『な、なんじゃ⁉︎』
また背後から攻撃されるのか⁉︎
そう考えた我は後ろを振り返りながら掌の魔法を背後へと放つ。
「アサシネイト!」
放たれた氷の魔法を黒刃が切り裂き、ついでに我の腕とドレスを切り裂いていきよった。
その黒刃を握るのは先ほどまで我に執拗に攻撃を加えていた狐の魔人。奴は我の腕が斬れたのを見てニヤリと笑いよった。
さっきまで手を抜いておったな!
そのムカつく笑みのせいで瞬時に頭に血が昇る。
『このキツネがぁぁぁ!』
「オラァァ!」
『ごふっ⁉︎』
我に瞬時に接近し、切り裂いた後にすぐに離脱しよった狐の魔人に向けて怒りのままにさらに魔法を放とうとした我の横っ腹に今度はターナトスの奴が近づいてきて拳を叩き込んできよった。
か、完璧に無防備状態じゃったからかなり痛い……
目尻に浮かぶ涙を拭い、再びスケルトンの群れの中へと姿を紛れさせていくターナトスを睨みつける。
『よし、落ち着け、落ち着くんじゃソラウ。いらついたら……』
ガツン!
心を落ち着かせようとして深呼吸をしていた背後から我の頭に小石が飛んできてぶつかる。
投げてきた方に視線をやればスケルトン達が我から一定の距離を取って小石を拾って投げてきたようじゃ。
いや、まあ、氷の護りがあるから痛くも痒くもないんじゃがな。
ヒュッ! ガツン!
だから痛くも痒くもないと……
ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ガツン! ヒュッ!ドゴン!
『効かんということがわからんのかぁぁぁぁぁぁ! あと誰じゃ最後にやたらでかい岩を投げてきよった奴はぁぁぁぁぁぁ!』
我慢できるかぁぁぁぁ!