魔王、魅力される
「魔王様! 今助けますから!」
「サロメディス?」
突然現れた巨大なスケルトンの肩には私を甲斐甲斐しく世話をしていたサロメディスの姿が見える。
いつの間にか私と対峙していたはずのターナトスの姿は消えている。と言っても私の関心はサロメディスが乗る巨大な漆黒のスケルトンに移ってる。
あれから感じる魔力の量は凄い量になってる。
感覚的に私が殴りつけても恐らくはあのスケルトンは壊れないというよくわからない確信がある。
思わず私は手に魔力を込める。
あれ、殴ってみたい。
純粋に殴ったら吹き飛ぶのかどうかがすごく気になる。
「よし」
私が腰を落として黒碗を両腕に発動させて飛びかかろうとした瞬間、夥しい量の魔法が爆音と共にスケルトンに向けて叩き込まれた。
『むう!』
『こいつもまほうきかなぁーい』
『でもゆれてるよ?』
精霊さん達による途切れる事のない魔法の攻撃だけど巨大スケルトンは僅かに揺れるだけで壊れている様子は見られない。
『ふん』
どこか不機嫌そうなソラウが片手を振るう。
振るわれた手の軌跡上に氷で作られたであろう巨大な剣がいくつも現れ、ソラウの「いけ」という声に従い恐ろしい速度で回転しながら巨大スケルトンに向かって飛んで行き突き刺さり、今まで精霊さん達が放っていた魔法などと比べ物にならない規模で爆発した。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ギャァァァァァァァァ!」
『かったいのぅ。魔法を無効化しとるわけじゃなさそうじゃが結構な魔力を込めた魔法を弾きよったぞ』
巨大スケルトンが先程より大きく揺れてるけど傷らしい傷は見当たらない。
どちらかというと肩に乗るサロメディスの方がやたらと大きな悲鳴上げてるし。
「あ、あの精霊! あの時のエルフの側にいた奴ね!フォートレススケルトン! あいつよ! あの青いのを叩き潰すのよ!」
巨大スケルトン、フォートレススケルトンというらしいに必死にしがみ付きながら命令するサロメディスの言葉に答えるようにゆっくりと動き、指先をソラウへと向ける。何する気?
興味を持ちながら様子を見ているとフォートレススケルトンの指先から次々と何かが放たれた。
『ぬお⁉︎』
『はやい!』
『きゃー』
飛んできた物に気づいたらしいソラウと精霊さん達が声を上げて散開する。そして誰もいなくなった場所には巨大な骨が次々と突き刺さっていく。
逃げるソラウを追うようにフォートレススケルトンの指先がソラウへと向けられて行き、ソラウの背後には常に骨が飛んでくるという状況。
『みゃぁぁぁ!そらうさまこないで!』
『そらうさまがくるとひがいがひろがる!』
『あっちいって! しっしっ!』
『お主ら! 酷くないかのう⁉︎』
ソラウが側に寄るだけで被害が大きくなるのを嫌がった精霊さん達が大声で拒絶していた。
「魔王様、今のうちにこちらに!」
「やだ。仕事とかしたくないし、楽しくないし」
「魔王様の好きなお菓子を用意してあります! フルーツタルトありますよ!」
「フルーツタルト!」
私の大好物だ。
よく見ればサロメディスの掌には巨大なフルーツタルトが乗せられていた。
ああ、あれ食べたい!
まるで魅了されたかのように私はサロメディスを肩に乗せているフォートレススケルトンへとフラフラと近づいていったのだった。