エルフ、当たりを引く
「きゅぅぅぅぅ!」
「ぐぇぇ……」
落下してくる巨大な物を見上げているとフィズの声が耳に入ると共に首にとんでもない負荷が掛かった。というか服が首に食い込んで首が絞まったので変な声が漏れた。
先程まで視界一杯に黒い物が迫っていたのが見えたけどそれは一瞬で見えなくなり、代わりに精霊樹の大きな姿が目に入った。
そして僅かな間を置いて全身に衝撃が走った。
「いだぁい⁉︎」
放り投げられるようにして地面を転がった私は地面で打ったお尻をさすりつつ声を上げる。
その隣ではフィズが真っ白な翼を広げた状態で全身で息をするかのように体を上下させていた。
「た、助かったよフィズぅぅ! 危うく潰されちゃうとこだったよ」
「きゅうきゅう」
息を荒くしているフィズを抱き抱えて背中を撫でながら私は感謝の言葉をフィズへと告げた。
どうやら潰される寸前にフィズが私の服の首元を口で咥えて飛んで逃げてくれたみたいだ。
体のあちこちが転がった拍子に打ったせいか痛いけど潰された所はないから良かった。
よかった! 竜というかフィズと契約してて本当に良かった。
「潰れんでよかったのう」
「…… ソラウも私と契約してるよね」
一方は助けてくれたけどもう一方は助けようともせずに腕立て伏せを続けてるし。
「契約者の危機ならばそりゃ我だって危険を排除するがのう。落ちてきたのは危険でもなんでもないからのぅ」
「いや、潰れるからね? 私は精霊みたいに霊体化できないし竜みたいに力があるわけじゃない普通のエルフなんだから」
「……普通のエルフは小粒のような竜や高位精霊である我と契約できるわけないんじゃがのう」
なんか言ってるけど声が小さくてエルフの耳でも聞こえなかったな。
「じゃがまあ、今回はお主のいう所の当たりを引いたのではないのか?」
「当たり? 潰されそうになったのに?」
私が潰されるのが当たりだとこの契約精霊は言いたいのかしら?
でも私が潰されたら泣いて懇願してきた契約が切れちゃって精霊界に強制送還されちゃうからそんなことは願わないと思うんだけど……
「お主がそう簡単に潰されるわけないじゃろ…… 我が言っとるのはお主が喚び出したものじゃよ」
「呼び出した物?」
そういえば潰されそうになった事から助かってすぐにフィズを抱きしめてたから喚び出したのが何かすら確認してなかった。
そんなわけでフィズを抱き抱えたまま私を潰そうとした物を一目見ようと背後へと振り返る。
そこにあったのは私とフィズが懸命に建てたなんちゃっての小屋ではなく、しっかりとした作りのログハウスだった。
「私とフィズが建てた小屋がない!」
「きゅうきゅう!」
「あれの下で残骸となっとるじゃろうな。じゃがよかったではないかあっちの方が立派じゃぞ? あと我も手伝ったじゃろ!」
いや、まあそうなんだけど!
それでもフィズと一生懸命力を合わせて作ったのが一瞬で潰されるのはなんとも遣る瀬無いというか……
「一発で当てるとはお主の持っとるのう」
「あっさりしすぎでしょう……」
「きゅー」
こうして私とフィズの努力を嘲笑うかのようにして木で作られた立派なログハウスが召喚されたのだった。