幹部、飲む
「サロメディス様! 前方より飛んでくる魔法の圧が増しています!」
「このままでは数時間と保ちません!」
「うぅぅ……」
次々と上がってくる絶望的な報告に私は頭を抱えるしかない。
おかしい、どこで間違ったの⁉︎
先程、私が魔力壁の魔力供給を一人で担うようになった時は明らかに余裕があったのに!
さっきから急に攻撃の密度が跳ねが上がったし!
「うぅ、頑張るのよサロメディス。あなたはやればできる子なのよ。うげぇぇぇまっずっ!」
ああ、魔力の消耗が酷すぎる。
その消耗した魔力を回復させるべく死ぬほど不味い魔力回復薬を中毒になりそうな勢いで飲んでる。
おかげでお腹がタポタポだよ。
これでも魔王軍で一番魔力があって魔力の化け物と呼ばれるくらいなのに……
飲んで回復した側から魔力がガンガン消費されてく。
「うっぐっ左右から展開させた兵と私のスケルトンはどうなってるの?」
新たな魔力回復薬を一気飲みしながら先程出した命令がどうなったかを確認するべく部下に声をかける。そして振り返った部下の真っ青な顔を見て結果がなんとなくわかった。
「ぜ、全滅で……」
「聞きたくない!」
私は全力で耳を塞いだ。
聞かなければ事実じゃない!
「おい、自慢のスケルトンが全滅しかけてるじゃねえか。魔法が効かないとか自慢してたやつがよ」
「うっさいわ! この筋肉達磨が!」
咄嗟に背後から耳に入った声に反応した私は瞬時に拳に骨の籠手を纏い、全身を魔力で強化。
背後にいるであろう野郎に向かい体を捻るようにして全力で拳を繰り出した。
「ごぶぅ⁉︎」
そして背後に予想通り立っていたターナトスの腹にめり込んで血反吐を吐かせた。
「なにいたの筋肉? さっさと迎撃に行きなさいよ。そのために魔力消費のでかい再生魔法でなくなった腕を再生させたんだから。とっとと迎撃に行きなさいよ。あと私のスケルトンはやられてないわよ! 今から出すスケルトンこそが本番よ!」
「ごぶっ! 振り返り様に人様を殴りつけといてそのもの言いか……」
口の端から流した血を腕で拭いながらターナトスが減らず口をたたく。
そんなターナトスを私は鼻で笑う。
「あんたみたいな筋肉しか取り柄がないバカなんて戦う事でしか本領が発揮できないんだから」
「筋肉なら任せろ」
褒めてねえよ!
なんでそんな自信満々なのよ!
さっきまで片腕なかったくせに!
その腕奪った元凶が攻めてきてるのになんでそんな余裕なのよ!
……思ってても口には出さないけどね。
こいつなら笑いながら背中叩いてきそうだし。痛いし。
「……さっさと行きなさいよ」
「任せろ。今回は全力でいく」
そう告げるターナトスの声にいつもはない真剣さを感じ取った私が改めてターナトスを見ると獣人があまり着込まないであろう軽装の鎧を着込んでいた。
「毛嫌いしてた私特製の魔法返しの鎧を着るなんて本気みたいね」
獣人は防具を嫌う。
なんか戦いは自身の肉体の力のみで行うものというよくわからない価値観が根付いてるかららしい。当然、ターナトスの奴もそんな古臭い価値観が強い。
「あれは強い。オレの筋肉だけでは倒せんからな」
バカはバカなりに考えてるみたいね。
「ならあんたの役目を果たしなさい! ここで魔王様を動かすわけにはいかないわ! 城というか奪った領土なくなりそうだし!」
「言われるまでもない」
背中を向けて去っていくターナトスに期待するしかない。
せっかく王国から魔王様のためにまともな城と領土を奪ったのよ!
ここまで整備して使えるようにしたのに魔王様が暴れたら周囲一帯が荒野と化しちゃう!
それだけはなんとしても阻止せねば!
あの愛らしい魔王様をボロボロの城で寝かすわけにはいかないもの!
私はまずい魔力回復薬を口に放り込むと決意を新たにするのだった。