魔王、言い当てられる
「魔王様、やめない? バレたらサロメディス様に怒られるよ?」
「私は怒られない」
「いやね? 魔王様は怒られないけどオレが! 怒られるんだけど⁉︎」
「だったら帰っていい」
「そんなことしたら余計に怒られるよ!」
ハクが隣でうるさい。
私は別に一人でいいのに。
魔力が蠢く感じがしている壁の向こう側の様子が知りたかった私はさっさと壁を乗り越えて移動する。
魔力を感じる方へと移動していくと精霊さん達が見たこともない魔法で魔王軍が占拠している元王国の城に攻撃を仕掛けているのを地面に伏せるようにして隠れて見ていた。
「あの魔法見たことない」
精霊さんはなんか筒みたいなやつから魔法をバンバン撃ち出してるみたい。
しかもその威力が半端ない。あんなのを連続で食らえば確かに体が自慢のターナトスもズタボロになるだろうし、マカーレフの魔力も無くなるだろうね。
実際、魔法が撃ち出されるたびに元王国の壁と城に火柱が上がり、魔力壁で守られてるとはいえ何度も揺れる羽目になってる。
「確かに見たことないけど、どう見てもヤバいし。魔王様帰らない?」
「いや」
帰るなら一人で帰ればいい。
私は精霊さんに興味があるんだから。
「でもここに隠れててもいつバレるかわからないんよ。そもそもオレの魔法でなんとか姿を隠してる状況なわけだし……」
ハクは姿を隠したり気配を消したりという魔法が得意だからね。それで背後から毒とか塗りたくったナイフで攻撃というセコい手をつかうらしいけど。
なんだっけ? 自称暗殺者? 私には傷一つ付かなかったけど。
「ん、それもそう」
ハクにしては良いことを言う。
確かに隠れてるだけじゃ何もわからない。
「よし」
「あ、戻る気になったってぇぇぇぇぇ⁉︎」
私が隠れるのをやめて立ち上がるとハクがまた煩い。ワタワタと慌てるハクを無視して私は魔法を放っている精霊さん達へと近づいていく。
『む』
『だれかきたよ』
『てき?』
『いきなりでてきた』
ハクの気配を消す魔法の範囲から出たからか精霊さん達が私の気配に気付いたようで私の方に警戒の視線を向けてくる。
とりあえずは挨拶してみよう。
挨拶は大事ってみんな言ってたし。
「こんにちは」
『こんにちは!』
『いいてんきだね』
『あしたはあめっていってたよ』
『え、せんたくものとりこまなきゃ』
会話があっちこっちに飛びまくってる。
可愛い。
『んー?いるぜのいろちがい?』
『かおとかそっくりー』
『みみとかみのいろ、あとはだのいろがちがうー』
『でもあれだね』
『『『むねはこっちのほうがおおきい!』』』
何がおかしいのか精霊さん達は笑ってる。そんな姿も可愛いんだけど私としてはその似ているという人物が気になる。
『お主らなにしとるんじゃ?』
『あ、そらうさま』
精霊さん達が騒いでいたからかより巨大な魔力の塊と言っていい存在、青いドレスを着た精霊がこちらにやってきた。
そして私の姿を見て驚いたように目を見開いた。
『ふむ、中にいた巨大な魔力はお主のか。なるほどなるほど、ダークエルフならば納得じゃのう』
一眼見ただけで私の種族を言い当てたのだった。