魔王、ほしがる
「魔王様、なんか外騒がしくない?」
「外で動きがあった?」
先ほどまでは壁の内側が騒がしかった訳だけど、迎撃の準備があらかた整ったのか周囲に静かにだけど緊迫した空気が漂いつつある。
でも、それと比例するかのようにして壁の外側が騒がしくなっていた。
この騒がしいというのは別にうるさいとかそういう騒がしさではなく、大きな魔力が外で動き出した事を感じることができるがこそ分かる騒がしさだ。
「壁の外の魔力が動いてる」
「ターナトスさんとマカーレフさんを追い詰めたのは精霊って話らしいですからね。精霊は魔力の塊みたいなものですから精霊が動いているんじゃないですか?」
なるほど。確かに魔力全てを見ると大きく感じるけど注意して見ると一つ一つは小さい塊みたいだし、確かに精霊かもしれない。
「ひとつだけ魔力の量が桁違い」
「いや、魔王様。確かに桁違いのが一つあるけど他のもかなり大きな魔力だからね? 魔王様基準で考えちゃダメだよ?」
いや、あなた達が弱すぎるのよ?
私のグーパンで悶絶して身動きが取れなくなるんだから。
もっと鍛えたほうがいいと思う。筋肉とか、魔力とか。
「それよりも動きが気になるね」
「ん」
サロメディスの事だから万全の態勢で迎撃をするんだろうけどそれでもサロメディスを撃退した精霊なんだからそれなりに強いんだろう。
一体一体は弱くても数で押されたら私もしんどいかもしれない。
物量は力だってサロメディスも言ってた。
『あーあー、まいくてすとまいくてすと』
どうやって精霊と戦おうかと考えているといつの間にか一体の精霊が壁の遥か上に姿を現し、おそらくは遠くに声を伝える風魔法を使い喋ろうとしている所だった。
「かわいい」
小さな小人に小さな羽が生えてる!
しかもそれがパタパタと動いてる! 可愛すぎる!
「ハク、あれほしい!」
「め、珍しく魔王様がテンションたかい⁉︎ あ、あの首絞めながら体揺らすのやめて! い、意識が……」
ハクが何か言ってるけどよく聞こえない。
あんな可愛いのがこの世界に存在したなんて! 是非お話ししたい。ついでにお友達になりたい!
『こほん』
精霊さんは小さく咳払いをすると何処から取り出したのか自分より遥かに大きな紙を取り出した。
『せんせーい、ぼくたちわたしたちはいまからいちじかんごにそのかべのおくにとつげきしまーす。りゆうはぼくらのいえにせめてきひとがそこににげたからでーす』
この精霊さん達がやっぱりターナトスとマカーレフを追いかけてたのは確定。
『じゃ、いちじかんごにまたきまーす。にげてもいいけどにげないとうれしいなぁ』
なぜかワクワクとした瞳を精霊さんがしているのを私の眼が捉えた。
そして宣言が終えたから精霊さんは手にしていた紙を丸めてまた何処かへと仕舞う。
そんな精霊さんに向かって私がひらひらと手を振るとそれに気づいたらしい精霊さんもにこやかな笑顔を浮かべて手を振り返しながら壁で見えないところへと姿を消したのだった。