魔王、気づかれる
「武器をありったけ持ってこい!」
「魔砲の準備を急げ!」
城の窓から飛び降りて庭へと着地。
隠れて様子を窺っているとなんだか魔族の連中が騒がしく動き回っていた。
これもターナトス達を追い詰めた連中のせいだろうけど私としてはこういう喧騒は嫌いじゃない。机に座って仕事するとかは大嫌いだけど。
机に座ってて好きな事は食べることだけだ。
「一体どんな大軍が攻めてきやがったんだ。あのサロメディス様が直々に指揮をとってられるぞ」
「元ロイゼント王国の生き残りじゃないか? ここはロイゼント王国の首都だった場所だからな。魔王様に差し上げるために幹部の方々が暴れまわって奪い取ったんだ。その時の生き残りが群をなして攻めてきたのかもしれん」
「それにしちゃあ、大分重装備だがな」
うん、私の目から見ても今準備をしている連中の装備はかなりの物だよ。
魔法反射素材を使った盾や魔剣、それに魔法を撃ち出す砲台である魔砲まで動かしてるし。
魔砲なんかは高価で数回使うと壊れるとかサロメディスがぼやいてた気がする。
私は素手で弾いたけど。
これはサロメディスは余程私に暴れて欲しくないと見える。
気配を消して会話をしている魔族達から離れた私は次の目的地へと向かい歩き出す。
これだけ騒がしければ私一人で歩いていても誰も気づくまい。
「魔王さま! どちらに行かれるのです?」
気づかれるわけない。
「魔王さま、魔王さまってば」
気づかれてるわけない。
「魔王さま!」
「うるさい、ハク」
ついには耳元で叫び始めたから仕方なしに返事をすることにした。
振り返った先にあるのは黄金色をしたもふもふの尻尾。それも四本。
頭にも同じ色のキツネの耳がピンと立っていてるけどなにか嬉しいのか耳がピコピコと動いてる。短く刈りそろえられた髪で男のようにも見えるし、服装は女の子が着るようなヒラヒラしたものだから性別がわからない。本人も言わないし。
ニコニコと笑いながら私の横にいつの間にか立っている魔族、ハクを私はげんなりしながら見た。
ハクはキツネの魔族で強いらしい。
らしいというのは私と同じように子供のような体躯であるのにサロメディスと肩を並べる幹部だからだ。
昔一回軽く殴っていいか聞いたら全力で拒否された。
だから私はハクが強いところを見たことが無い。
「魔王さまって頭の上にもケモ耳あるのに顔の横にもあるよね? なんで?」
「さあ? ハーフだから?」
なんか獣人はその特性の獣の耳があるだけらしいんだけど私は獣人とのハーフだからか耳が四つあるんだよ。ちなみにどちらもしっかりと聞こえる。
「で、なにしてるんです?」
「暇つぶし」
魔王軍が壊滅するまでの、だけど。
私の心の内を知らないであろうハクはふーんと言いながらも私に付いてきていた。
「ハク、仕事は?」
「部下のゲロゲロとパルパルに任せてるよ。それにサロメディス様が幹部は全員待機してろって」
完璧な他人任せじゃない。それにしても部下のネーミングセンスが酷い。
しかし、幹部全員を待機って……サロメディスは本気みたいだ。
幹部は確か全部で六人だったかな?
そんでこの城にいるのは逃げ帰ったターナトス、マカーレフ、そしてここに待機してるサロメディスにハクと全部で四人。
サロメディス曰く四人いれば国が取れるとか言ってたっけ。実際、この国は落としたみたいだし結構強いのかな。
「あ、そういえばさ、いつまでも幹部ってカッコ悪いからさ、名前考えたんだぁ!」
「どんな?」
「ロッカクブラザーズとか!」
「ださいから却下」
「えぇぇ⁉︎」
相変わらずネーミングセンスが壊滅的だよ。
そんな騒がしいハクを引き連れながら私は大きな溜息をついたのだった。