エルフ、デカイのを出す
樹を突き刺し、組み上げるだけの簡素な屋根がある建物はあっさりとできた。
やはり精霊や竜はエルフと違ってパワーがあるなぁ。
フィズは器用に尻尾で樹を掴んで地面へと突き刺してたし、屋根の部分はソラウが空を飛びながら力ずくで乗せてた。
まさに力技だよね!
「これで最低限の住処はできたかな」
「きゅきゅう!」
出来上がった小屋と呼んでいいかわからない建物を見ながら私とフィズは満足気に眺めていた。
あとは隙間が無いように板でも打ち付けとけば大丈夫だろう。
疲れたのかフィズは器用に前足で汗なんてかいてないはずなのに額を拭う素振りをして泉の方に向かい歩いて行った。
契約したせいかわからないけどどうも仕草が人っぽい竜だなぁ。
「しかし、思ったのじゃがな」
「なに?」
建てるのに協力していたソラウが今は腕立て伏せをしながら呟いていたのに私は首を傾げていた。
もちろん、今の姿はあのドレスがピチピチになるような筋肉ばかりの体では無く華奢な美少女ボディ。
というかそうなろうとしたのを私が契約を切るという言葉をチラつかせてやめさせた。
またムキムキになられたらフィズが吐くし私も気分が悪いからね。
「いや、お主の召喚術の中には確か召喚する物が選べないランダム召喚というのがあったじゃろ? あれで家らしきものが出るまで召喚すればよかったのではないのか?」
珍しくソラウがまともな事を言ってる…… 腕立てしながらだけど。
「うーん、それは考えたんだけどね? 精霊樹の近くなら魔力の回復も桁違いだし、当たりの家が出るまで召喚し続けるのもありかもしれないけど……」
「けど?」
私が言葉を途切らせたのをソラウは残像が残る位の速さで腕立て伏せをしながら先を促してきた。
「ハズレを引いた時が怖い」
「なんじゃそれは」
ソラウは呆れた顔をしつつも腕立て伏せを再開し始めた。
確かにソラウの言う通り今の魔力の回復量ならランダム召喚の方が小屋を作ったりするより遥かに効率がいいのは確かなんだよなぁ。
召喚魔法を使う際には魔力の消費は少ない。でもそれはあくまでも契約召喚に比べてという事なんだよね。
「小さな物が召喚されるだけなら問題ないんだけどね。もし小屋より大きな物が召喚されたら一瞬で魔力を食い尽くされちゃうんだから」
ランダム召喚は実際には召喚される物の大きさに比例するわけで全く実用的でもない物でも大きければバカみたいな魔力を食われたりする。下手すれば気絶するし。
「でもまあ、一度くらい試してもいいかもしれないね」
幸いな事に近くには精霊樹がある。
ハズレを引いて魔力が無くなってもしばらくしたら回復するだろうしね。
私はその場にしゃがみこむと地面へと手を出して当てると目を閉じる。
ランダム召喚に契約召喚を行った時のように複雑な魔法陣を描くは必要ない。
ただ単純に召喚したい場所に手を置き魔力を流すだけというお手軽なものだ。一応、召喚術の知識は持っておかないとダメなわけだけど。
「召喚」
短いキーワードと共に手を当てた地面に魔力を流し込む。地面へと染み込んだ魔力は自然と小さな魔法陣を描き輝きを放っていく。
少量の魔力を吸われるような感覚を受ける。これは何か小さな物が召喚されるだけかもしれない。
「あ……」
そんなことを考えていたら突然、吸われる魔力が増加した。
やばい、これデカイやつだ。
すでに地面に描かれていた魔法陣はさっきまであった小さな魔法陣ではなくとんでもなくデカイ物に変わってるし……
やがて魔力が吸われる感覚が唐突に止まり、魔力が枯渇寸前でふらつく私の頭上に影が生まれた。
「やっばぁぁぁぁぁぁ!」
頭上に影が生まれるという事は私よりも巨大な何かわからない物が現れたという事だ。
それに気づいた私は動きが鈍い体を動かし、横っ飛びで回避をしたけどまだ影は私の頭上にあった。
あ、これ潰される。
私に迫る物体を見上げながら私はそう思った。