魔王、逃げ出す
新章になります
ターナトスとマカーレフが帰ってきたと言う報告を受けた。
ああ、またうるさいのが帰ってきたなぁ。
私はうるさいのはいやなのに。
そんな事を考えながら私、シャオはため息をついては山の様に積み上げられている書類へとサインをしていく。
すでに何枚サインしたかわからないけど紙を手渡されると手が反射的に自分の名前を書こうとするくらいにはサインした。
「魔王様、こちらもサインをお願いします」
「イヤ」
もう飽きたと言わんばかりに私は手にしていたペンを書類の重さで軋んでいる机にさらに書類を載せてきた身体中に包帯を巻いたサロメディスに向けて、瞬時に魔力を込めて放り投げる。
轟音を上げて私の手を離れたペンは必死の形相で躱したサロメディスの頬の肉を抉りながら突き進み、勢いを落とさずに壁へと突き刺さり、周りの壁を一切壊す事なく貫通。サロメディスには当たらなかった。
「な、何をするんですか魔王様!」
「仕事、あきた」
サロメディスが怒るけど私は悪くない。
だって私は働きたくない。暴れるのは好きだけど。
本来なら喋るのすら面倒なんだもの。
そもそもの話が魔王なんて周りが勝手にそう呼んでるだけなんだから。
ただ、単純に煩いから殴り倒してたらいつの間にか魔王さま魔王さまって呼び始めてたし。
まあ、何もしなくても食事と寝る場所が勝手に準備されることはいい事なんだけどさ。
色々やってくれるんだけど何かあるとすぐに私にサインさせるのは如何なものかと思う。
苛ついたらペンも投げたくなるというものよ。
「それより、ターナトスとマカーレフが帰ってきた?」
「あ、はい。ターナトスに至っては片腕が無くなってるらしいですよ」
「筋肉が?」
「はい、あの筋肉バカがです」
それは驚いた。
あの筋肉は私の本気じゃないとはいえ拳を直撃させても肉体が爆散せずに意識を失うだけで済むというレアな奴なのに。
それが腕を失うなんて……
「まあ、あの森に手を出した訳ですから命があるだけまだマシというものです」
「サロメディス、あの森行った?」
「ええ、あの森に世界樹があると聞きましたので魔王さまにあの地を献上しようかと思いまして。あれ? 私魔王さまに言いましたよね」
「そう?」
どうだっただろう?
眠たい時に寝てる私だから報告されても寝てたかもしれないから聞いてなかったのかも。
それにしても筋肉の腕を取った存在が気になる。
「ん、追ってきた奴らは?」
サロメディスに尋ねながら私は椅子から飛び降りると私の着ている黒いワンピースと長い銀の髪が揺れる。
着てる服は全部、サロメディスのコーディネートだ。
サロメディス曰く、「可愛らしい魔王様を着飾らないのは世界の損失です!」と何故か力強く言われたから好きにさしてる。
「ま、魔王さまが自ら行かれるおつもりですか⁉︎」
「ダメ?」
私が体を捻ったりしながら準備体操を始めているとサロメディスが顔を青くして聞いてきた。
だってあの無駄に怪力の筋肉と魔王軍で私の次に強いはずのサロメディスが負けた訳だから相手ができるのは私だけな気がするんだけど?
「す、すぐに動ける魔王軍を投入しますので!」
「じゃ、待つ」
サロメディスが持っていた書類を床に置くと慌てて執務室から飛び出していった。
魔王軍がどんな軍か知らないけど多分私より弱い。
私より弱いのがターナトスの腕を取った奴を倒せるとは思えない。
だったら待っても待たなくても結果は同じだけど、待ってもいい。
どっちにしろ私は暴れるだろうし、それに私の体に半分流れる獣人の血が暴れたがってるしね。
とりあえずは待ってる間はターナトスとマカーレフにでも会いに行こうかな。
仕事から逃げられる口実を手に入れた私はスキップをしながら執務室の窓から飛び出し、逃げ出したのだった。