幹部、観察される
「うちまくれぇ!」
「下がる時間をかせぐんだ!」
ああ、爆音がうるさい。
本来ならもう魔王様がいる城で眠りにつけるような時間帯、真夜中だというのに何故私がいるのは暑苦しい筋肉の肩の上なんだろう。
「それもこれもあなたが悪いのよ!」
「過ぎたことで文句を言うんじゃない!」
力一杯、といっても魔法特化の私が殴っても痛くも痒くもないだろうけどね。
でも私の苛立ちをぶつける場所は私を抱えてるターナトスにしかないわけよ!
「だが俺からも文句を言いたいぞ! お前の魔法、半日くらいしかあいつらをまけなかった!」
「あんたは全く逃げれなかったじゃないの!」
私の放ったフェニックスの魔法爆破により精霊達は確かに私たちを見失い、しばらくの間は安全に帰路に着く事は出来たし、多少の休憩も取れた。
でもしっかり半日が経ったくらいからまたあの無邪気な死神達の声が聞こえ始めたのよ!
『このへんかな?』
『たぶん』
『やきはらう?』
物騒極まりない会話だったわ。後近くで聴いてたら生きた心地が全くしなかったし。
もし焼き払われてたら死んでたし。
しばらくは隠れながら進んでたけど、そもそも隠密とかとは無縁の筋肉馬鹿のターナトスの軍がそんな長く隠密行動なんてできるはずなく、発見されてからは精霊達の動きは早かった。
『みっけ!』
『こうげきこうげき!』
そこからは再び悪夢のような時間だったわ。
ひたすら飛んでくる魔法。それにより吹き飛ぶターナトスの部下達。あ、私の部下はきっちり隠密してるからか見つからなかったみたいだけどね。
本来なら私も魔法で姿を隠したいところなんだけどターナトスに担がれてるからそうもいかないし。
でも部下には先行させて元王国の首都改めて魔都オリュセントに連絡を行かせているから迎撃準備は出来てるはず!
「ターナトス、早く逃げなさいよ! もう少しで魔都なんだから!」
「今でも充分に全力だ! 荷物を担いでなきゃもっと速いわ!」
「私が無駄に重いと言うの⁉︎」
「胸にぶら下がっとる塊が重いんだよ!」
「なんですってぇぇぇ!」
二人で喚きながら走っているのだけど攻撃の手が止まった事に気付いた。
ターナトスに担がれたまま攻撃が止んだ方を見ると一定の距離を保ったままついてくる精霊の姿が目に入る。
しかし、彼らは全く攻撃してくる様子が見られないわ? なぜ? それどころか観察するような眼差しの気が……
『あれ、おもしろい』
『あれがいせかいでいうまんざい?』
『えむわんぐらんぷり?』
『これはいるぜたちをわらわせるのにつかえる』
よくわからないけどバカにされてるのはわかるわ!
それになんかメモしてるし!
「早く走りなさいよ筋肉ダルマ! なんかバカにされてるわ! 絶対!」
「痛い! 走っとるだろが!」
『『『ないすつっこみ』』』
「ツッコミなどしとらんわ!」
こうして私達は魔都に着くまで攻撃される事なく精霊達に笑いながら観察される羽目となった。
これにて精霊進行編は終了です
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