大精霊、楽しむ
森の中で爆音が響いとる。
精霊達は暴れておるようじゃのう。
このペースで暴れ進んでおればアヴェイロンの結界範囲から出るのも時間の問題じゃ。
ま、出たところで何のペナルティもないがのう。精々、精霊樹からの魔力供給がなくなるくらいじゃ。それも精霊樹の周りで遊び魔力保有量が格段に増えた精霊達には大した問題じゃないじゃろうしな。
『さて、問題はこっちじゃな』
我は暴れ回る精霊達から意識を手元に収まる漆黒の剣へともどす。
これは黒騎士の元になっている剣なわけじゃがボロボロじゃ。
精霊達が慌てた様子でこの剣を持ってきた時は何があったのかと思ったがなんて事はない、武具精霊としての姿形を保つことができなくなったみたいで元の剣の姿に戻ったんじゃろう。
その事を伝えるとこれを届けた精霊達は明らかにホッとした様子でまた前の方に遊びにというか暴れに戻った。
『まあ、完璧に精霊側が悪いわけじゃしな』
我の見立てでは黒騎士が侵入者に遅れを取るなんて事はないと思う。
となるとやったのはさっきの精霊達の慌てようから精霊達によるふれんどりーふぁいあーというやつじゃろ。
それでもいつもならば放っておくところじゃ。
世界とは強いものが生き残り弱いものが淘汰され、新たなものが生まれる。そういう作りになっておるわけじゃからな。
じゃが、今回は例外じゃ。
『なにせこの武具精霊は進化しかけておったわけじゃし』
そもそも武具精霊は喋らない。
自我が薄いため咆哮などは上げたりはできる。あとは聞かれた事には頷いたり首を振ったりといった感じで意思の確認はできるんじゃが会話などはできんもんじゃ。
じゃが、この武具精霊は片言ではありながらも喋っておった。
自我が薄い武具精霊が進化するなんてレアもレア、つまりは激レアというやつじゃしな! そんな貴重な存在を精霊達のミスで潰されてしまっては堪ったもんじゃない。
おそらくは森に生息している魔力がやたらと強い魔獣を狩っていた影響なんじゃろうが詳しい事は分からんがな。
『イルゼの側はやはり面白いのう』
本人はあくまでもただのエルフであると思っておるようじゃがそんなわけあるまいに。
普通のエルフはあれほどの光沢を放つような金の髪を持っているわけがない。
普通のエルフは薄い緑がかった髪だというのにのう。
まあ、本人を見ておると彼奴がエルフかどうかを認識している条件が耳が尖っているかどうかというものらしいがな。
間違えではないが放っておいた方が面白そうじゃからあえて訂正しておらんがのう!
『まだまだ楽しめそうじゃしな! それにお主もまだ暴れ回る事ができるからのう』
手にした剣へと笑いかける。
おそらくは何かしらの後押しが有ればこの武具精霊は進化することじゃろう。
その後押しになるかはわからんが我は手にしたボロボロの剣へと氷の魔力を流し込みながら笑い、前の方で暴れているであろう精霊達の元へとゆっくりと向かうのじゃった。