幹部、集中する
「も、もう追いついてきやがった」
「それは私のセリフです! なんでもう逃げてきたんですか! 速すぎでしょ!」
「筋肉ではどうにもならないことがあるとオレは学んだんだ!」
今更ですか⁉︎
その勉強料として死ねばよかったのに!
よりにもよって私達と合流してから見つかるとか最悪過ぎます!
「とりあえず逃げますよ!」
「ああ!」
私とターナトスが必死に逃げようとする様を見てようやく危機感を得たらしい部下達も必死に後に続くようにして走り出す。
あれはヤバイ。
魔法にはそこそこ自信がある私だけど太刀打ちできる気がしない。ターナトスの筋力ではもっと無理だ。
羽の生えた小さな小人、あれが精霊というやつなんだろうか?
「ターナトス! あれが精霊ですか⁉︎」
「そうだ! あれはヤバイぞ⁉︎ オレとおそらくは互角の戦闘力を持つ奴を一撃で戦闘不能にしてたし、さらには魔法の発動する気配が全くわからねえ! 何人か部下がそれで攫われたり足を地面に縫い付けられたりされてた!」
走りながらターナトスへと尋ねると絶望的な返答が返ってきた。
魔法の発動がわからない?
あの本能で大体を察知するターナトスが?
「ギャァァァァァァァァ⁉︎」
僅かに考え込んでいると背後から悲鳴が上がった。
見たくないけど振り返ると部下の一人の足が土の槍のような物でおそらくは下から貫かれており、身動きが取れない状況になっていた。
「本当に何も感じない⁉︎」
普通、魔法を念じて発動する瞬間というのは魔力を望む形へと変化させる間に漏れる魔力がわかる。それは術者の手元から発動させて飛ばしたりする魔法よりも術者から離れた遠くの場所で発動する場合のほうがよくわかるというものだ。
今、部下の足を貫いた土の槍は明らかに後者。術者から離れ遠くで発動するタイプであったのに発動の前兆などが全く感じなかった!
すかさず反転したターナトスが地面を蹴り上げ、というか吹き飛ばして土の槍を破壊。
自由になった部下を急かすようにして走らせてそこから片手でバク転をしながら後退。ターナトスがバク転をして後にした地面からは次々と土の槍が飛び出して来たがターナトスはそれらを全て回避していた。
おそるべしだな脳筋……
「あとあの竿持ってる奴らには気を付けろよ⁉︎ あれに捕まると吊り上げられるぞ!」
「竿⁉︎ 竿って何⁉︎」
「あぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
よくわからない事を口走るターナトスに聞き返してたら私の前を走ってた部下が一瞬で視界から消えた。
「へ?」
『ふぃぃっしゅ!』
「やべぇ、竿持ちがさっきより増えてやがる!」
何が起こったか全くわからないままだけど、とりあえずまずいということだけはわかる!
「フェ、フェニックス!」
私は後ろを振り返りながら得意な属性、炎の魔法を行使する。
巨大な鳥の形をした炎の魔法、フェニックスは私の手から解き放たれると翼をはためかせながら宙を舞う。
『む』
『こしゃくな!』
『げいじゅつてん80』
『どくそうせい60』
『ねーみんぐせんすふつう』
精霊達は口々に批評をしながら飛び込んできたフェニックスを軽やかに回避した。
「せい!」
しかし、私のフェニックスは放つだけじゃない!
なにせフェニックスは発射型ではなく操縦型なんだから!
私が腕を動かす事でフェニックスは翼を動かし、軌道を変えると再び精霊へと襲い掛かった。
『むぅ』
『ちょこざいな』
再び襲いかかって来たフェニックスに気づいた精霊は宙を飛び回り回避していく。
その間にもフェニックスが追いかけ回していない精霊達がこちらへと迫ってきていた。
手が足りない!
「ターナトス、私を抱えて移動して!」
「まじかよ」
ぼやきながらもターナトスは私を抱え上げて移動をし始めた。
よし、これで意識を全部魔法に集中できるわ。
「フェニックス!」
今操っているのとは別のフェニックスの魔法を再び発動させ宙を二体のフェニックスが火の粉を撒き散らしながら飛ぶ。
『に、にたいめ?』
『あ、やばい?』
『みえないとこにくるー』
精霊達の死角を狙うように操り飜弄する。
強力な魔法を使う精霊ではあるけどやはり死角からの攻撃には反応が遅れてる。
『むーやられるのはいや!』
『せいれいかいにはまだかえりたくないー』
ギャーギャーと喚きながらフェニックスを避けている精霊達。そのお陰でかなりの距離を取ることができた。
「ターナトス! 今から爆破させるから全力で範囲外から逃げるのよ!」
「バカか! 今でも全力だ!」
「何のための筋肉よ!」
「少なくとも逃げるためじゃねえよ!」
なら私を守って肉壁として死んで欲しいものだけど、今こいつに死なれると私を運ぶ兼肉壁がいなくなる。
そしたら私も死ぬしかないじゃん。
「仕方ない! 光で目眩しするから! それならいいでしょ!」
「それなら……」
「フェニックス!」
ターナトスの返事を待たずに私は三体目のフェニックスを作り上げ、必死に避けている精霊の群れに向けて放つ。
『わぁまたきた!』
『よけれない?』
『だめだー』
「爆ぜろ!」
精霊達にぶつかる寸前で私はフェニックスに送っていた魔力量を一気に増やす。
するとフェニックスは急激に膨張を始め、もはや鳥の姿とは思えないほど膨れ上がり、
『あ、やなよかんが……』
精霊達が漂う空のど真ん中で爆音と光を撒き散らしながら爆発したのだった。




