エルフ、飛び出す
『それでいつまで遊んでいるつもりですか?』
イーリンスが怖い。
いや、本当に怒らせたらダメな精霊だよ。フィズは前と同じように完璧にビビって尻尾を隠してるし、ソラウも顔が青い。
『ま、待つのじゃ! 今回は我らは全く悪くないぞ⁉︎』
「きゅうきゅう!」
まるでいつもは自分たちが悪いみたいな言い方。いや、確かに状況を悪化させてる気はしなくはないけど今回は何もしてないよね。
向こうから攻めてきてるわけなんだから。
責められてるこっちは被害者なんだけどなぁ。
『あなた達の感覚はおかしくなってるでしょ! 普通は攻撃されるような環境にいるのがおかしいのよ!』
た、確かにそう言われたらそうかもしれない。
なんか敵襲が多いから感覚が麻痺してたよ!
『イルゼ、あなたがやる気になればどこから攻撃されてるかわかるんじゃないの?』
「そういえばまだちゃんと意識して見てなかった」
イーリンスに言われて脳内地図を意識してみれば確かに何処から攻撃されてるかわかるだろうし。
『ソラウ様もフィズも本気を出せば森を薙ぎ払いながら攻撃で蹴散らせるでしょう』
『薙ぎ払うって……おぬし、一応は植物の精霊じゃろうが。森に対して過激すぎじゃろ』
『とりあえずです! あたしはイルゼが全く見ない書類の確認で忙しいんです! 帝国からこっちにきたエルフ二人も仕事量と騒音の煩さで顔が真っ青なんです! さっさとあの騒音の元を片付けてください!』
「わ、わかったよ」
隈が出来てるからかイーリンスの顔が怖い。美少女だけど目がきついから余計にだからかもしれない。
というか私も一応エルフなんだけど……帝国から来たエルフが軟弱なんじゃないかなぁ。
『早くする!』
「は、はい!」
でもイーリンスが怖いので口には出さずに私はソラウとフィズを引き連れてイーリンスが蹴り壊した扉を直している精霊さん達の横を通り部屋の外へと飛び出した。
「うっわ、すっごい遠いとこにいる」
外に向かい歩きながら脳内地図で攻撃をしてくる連中の場所を調べると災害の森の外縁部と言える場所から攻撃してきてる。
普通の弓なんかじゃ絶対に届かないような距離だね。
『めんどくさいのぅ。今回はやる気が全く起きんわい』
いつもなら一番乗りで戦い上がるソラウが本当に気乗りしないような顔で呟いていた。
「ソラウって戦うの好きじゃないの?」
『その言い方は誤解を生みそうじゃからやめよ。いや、確かに嫌いではない。人をぶっ飛ばしたりするのは気分がいいからのう』
やっぱり戦闘狂じゃん。
『じゃがそれは相手が姿を見せて対峙している場合じゃ。別に武器を持って戦えというわけじゃない。姿を見せずにこそこそと安全じゃと思っとる場所から攻撃してくるのが気に入らんのじゃ』
ふーん、そういうものなのか。
私にはよくわからないんだけどさ。楽なのがいいと思うけど。
『我は氷の大精霊で魔法が得意と思われがちじゃが、どちらかというと接近戦の方が得意じゃしな。じゃからというわけではないが我に怯えながらも向かってくる人間らは素直に尊敬するぞ』
「じゃ、今回攻めてきてるのは?」
『論外じゃろ』
やっぱり大精霊もよくわからない存在だなぁ。