エルフ、天に放つ
『精霊と人種が決闘なんて聞いたことがないんじゃが……』
『わたしも聞いたことがありません』
そんな精霊である大精霊と高位精霊が二人して呆れた目をしながら大きくため息を吐いていた。
「二人はいいじゃない。見てるだけなんだしさ。戦うの私なんだよ?」
決闘決闘と駄々をこねるリリィに根負けした私は仕方なしに決闘を受けることにした。
そうしないといつまで経っても話は進まないし、面倒なことが終わらない。
当然部屋の中でなんかか戦えばどうなるかわからないから外へと移動してる。
私としては国なんていらないわけだからさっさと負けてもいいんだけど、イーリンスとソラウからの無言の圧力というべきか「負けたら許さない」みたいなのを感じるんだよね。
「本当にめんどくさい」
そもそもの話が私は武器での殴り合いなんて野蛮なことは嫌いというか面倒だからやりたくない。
そんなわけで私がメインで使うのは召喚術で喚び出したものに戦ってもらうものなんだけど、リリィの言うこの決闘の趣旨が「私の実力を見る」というものだからタチが悪い。
なにせ喚び出したものに戦ってもらって勝利してもそれは喚んだものの力で勝利したと言われたらどうしょうもないわけだし。
はぁ、と再びため息をつく。
つまりは私自身の力を見せないといけないわけなんですよね。
『さあ、どっからでも掛かってくるです!』
私の気分など知らずに全身から魔力を放出しているリリィが声を上げている。
正直な話、世界樹やダンジョンコアの影響で私の魔力はどれくらい増えてるのか自分でも把握できてないんですよね。
だからこそ、使いたい魔法が一つだけあるわけなんだけどね。
「確認するけど、勝負は私の攻撃をあなたにぶつけるでいいですね?」
『リィがやると不公平ですから構わないです』
流石に精霊からのノータイムでの魔法は防げないと思う。多分だけど……
防げても魔力を凄く使いそうだし。
まあ、私に攻撃させてくれるみたいだから守る必要がないのは非常に助かるけど。
「はぁ」
でも面倒なのには変わりない。だけどやらないと終わらないみたいだし仕方ない。
私は頭上へと手を上げて自身の魔力である翡翠色の風を頭上へと集めていく。
「ソラウ、イーリンス」
『なんじゃ?』
『なんです?』
翡翠色の風を集めながらこれから発動させる予定の魔法の威力を考えて、私を見ている二人の精霊へと声を掛けた。
「今からリリィの要望通り、私は全力の一撃を叩き込むわけなんだけどね。その前に質問なんだけど、精霊って死ぬ?」
『な⁉︎ リィをバカにしてるですか!』
どこにバカにする要素があったかわからないけど私は凄く真面目です。
なぜなら今から放つ魔法は魔力が足りなかった頃の私ならばリリィは吹き飛ぶだけで済んだかもしれないけど、魔力が足りるようになった今の私が放てばどうなるか全くわからない。
『ふむ、精霊は死ぬことはないのう。存在する力を失えばペナルティとして精霊界に無理矢理戻されるだけじゃ』
『ペナルティはどれくらい力を失くしたかによりますがしばらくこちらに来れないくらいです』
「りょーかい」
つまりは死なないと。
なら問題ない。
頭上に掲げた掌には既に翡翠色の風が球体となり、周囲の風を吸収し続けている。
以前までの私ならばこの球体を作る事が出来なかったんだけどなぁ。でもコレが作れた事でちゃんと魔法として放つ事ができる!
「じゃ、いくよ? ソラウ、イーリンス。守ってよ⁉︎」
私の声を聞いてかソラウとイーリンスから防御系の魔法が放たれ私の体を包み込む。
よし、これで自爆はしない。
『そんな魔力を固めただけのじゃリィは認めないです!』
私は怒るリリィに対して宣言をすると掌に収まる翡翠色の風の塊を握り締め、腕を大きく振りかぶり、
「エルフゥゥゥ大旋風ぅぅぅぅ!」
今日初めて発動するであろう魔法名を唱え、翡翠色の風の塊を天に向かって放り投げた。