エルフ、転がされる
「きゅうきゅう!」
「いいじゃない、少しくらい!」
私は家というか屋根を作るためにフィズと戦っていた。
なぜって? フィズの集めた宝物候補の中から使えそうな板を取ったらフィズが怒って体当たりをしてきたからだよ。
どこからどう見てもただの板にしか見えないから貰ってもいいかなぁと考えて手に取った私に対して完璧な不意打ちだった。
子竜で小柄と言ってもフィズはそれなりに重い。
小さな羽根で飛んでるから勘違いされがちだけど竜だからすっごく重い。私の肩に乗る際は多分魔法で体を軽くしてるんだろう。
そんなフィズがおそらくは手加減してくれてるんだろうけどぶつかってくるからかなり痛いんだ。
「きゅう!」
「あだぁ⁉︎」
結局は体力というか力の差が圧倒的な竜のフィズに軍配が上がり、フィズは私が持っていた材料を咥えて取り返すと軽々と私を弾き飛ばし、私は地面を転がる羽目となった。
「ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃない!」
顔についた土を立ち上がりながら拭い、口の中に入った土も吐き出す。
うぅ、口の中がじゃじゃりするよ。
「何をしとるんじゃお主は……」
声に驚き振り返るとソラウが腕を組みながら呆れたような顔をして姿を現わすところだった。
「あ、ソラウ! 聞いてよ! フィズったら酷いんだよ! 私突き飛ばしたんだ」
「いろいろと状況説明が抜けとる気がするが、どうせお主が無理やり取ろうとしたんじゃろ?」
まるで見ていたような物言い。
実際、精霊は姿を消したり、実体を持ったりとを自由にできるらしいし、姿が見えないだけで側にいたのかもしれない。
「だってあんなに一杯いらなそうな物があるんだから少しくらいいいと思わない?」
「種族による価値観の違いはあるじゃろうが。それに小粒はまだ子供じゃぞ? 竜としての財宝への嗅覚がきっちりしてるわけでもないじゃろ」
「そりゃそうだけど」
フィズはまだ子供だからね。まだお宝が何かわかってないんだと思う。
竜によって集めるお宝に違いがあるらしいしね。武器を集める竜もいれば宝石を集める竜もいるって聞くし。
フィズが大きくなってもガラクタが宝物と言い張らないことを契約者としては望むしかないかな。
「大体、材料なら周りの木を使えばいいじゃろうが」
いとも容易く言ってくれるよね。
「私はエルフよ? 肉体労働は向かない種族なのよ。あなたのせいで他の精霊もなかなか力を貸してくれないしね!」
「むぅ」
私の物言いにソラウは眉をひそめた。
エルフの主な魔法は精霊魔法だ。精霊に魔力を渡して力を借りて魔法なわけなんだけど、当然、その場に精霊がいないと使えない。そしてエルフは契約している精霊以外にも精霊に好かれる種族なわけだから精霊魔法が使えないなんて事は普通はない。
私みたいなイレギュラー以外は。
いや、この言い方だと私がおかしいみたいな言い方になっているね。
私も別にソラウ以外に精霊魔法が頼める精霊がいないわけじゃないんだ。
ただ、単純に他の精霊がソラウの気配を私から感じ取ると遠慮してというかソラウが威嚇してるみたいで近づいてこないんだよね。だから精霊魔法が使えない。
というかソラウが近くに居ないとほぼ使えないというのが正しい。
「我と契約しといて他の精霊の力を使う必要はあるまい」
「だってあなたはやり過ぎるじゃない」
「そんなことはないぞ? さあ、我にやってほしいことはなんだ?」
目をキラキラさせながらソラウが私を見てくる。
そんな輝いてる瞳から私は目を逸らし、ソラウに見えないように小さく溜息をついた。