エルフ、殴られる
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「イルゼ、お前を村から追放する!」
昼寝をしていた私を叩き起こしたお父様が私を正座させてそう告げた。
私が正座させられている場所はエルフの里の中心部。言わばみんなから見える位置なわけで、周りを歩いていた人たちも何事かと言った様子で私と族長であるお父様を眺めていた。
「お父様、追放される理由がわかりません」
とりあえずは現状把握に努めよう。
そんなわけで早速理由を聞いてみた。
「ほう、理由がわからないと?」
「はい、私は何もしていませんので!」
これだけははっきりと言える。私は何もしてない!
私は特に特技や得意なことはないけれど不得意なことも無い。なにも失敗はしてないわけだからなんの問題もないはず。
……はずなんだけどお父様、なぜ額に青筋を浮かべているんですか? あと周りの人たちもなぜ呆れたようにため息をついているんだろう?
「その何もしてないのが問題なのだ馬鹿者ガァ!」
「あだぁ⁉︎」
怒声と共に頭に拳が落とされた。
お父様の拳は痛い、昔から受け続けていた私が保証する。お父様なら拳だけで世界を取れると!
「いいか、エルフはほぼ不老不死のようなものだ。齢が100を超えた辺りからは大人としてあつかわれる。これは身長が小さく、子供のような体型をしているお前も当てはまる。これは理解しているな?」
お父様に殴られた頭をさすりながら私は頷いた。
私の年齢は140歳。一応は大人の区分に入るか。
エルフの体は約100年かけて成長し、100年以降にはほぼ容姿が変わらなくなる。つまり、100歳になった時の容姿がこれから自分が付き合っていく姿というわけだ。
……つまりはこの子供体型と一緒なわけなんだ。
「お前はエルフでは大人なわけだ」
「そうですね」
なぜか遠い眼をするお父様。
「そしてお前は大人になってから働いていないではないか!」
「あだぁ⁉︎」
再び振り下ろされる鉄拳。
しかもピンポイントで同じところを殴ってきたし。
「お父様! 誤解です!」
また拳を作っているお父様が目に入ったので私は両手を上げて止める。
「私は何もしていなかったわけではありません」
「ほう、では家の中でゴロゴロ40年過ごしていたわけではないと?」
「もちろんです」
当然だ。
いかにエルフの生が長いと言っても40年も何もしないわけがない。
「私は40年間、家の警備をしていたのです! おかげで不審者などはこの40年はなかったでしょう?」
そう! 私は40年間もの間、自宅を守護してきたのだ! しかも無償で! いや、正確には三食の食事が報酬なわけだけど……
そういうわけで私は働いていないのではない。自宅こそが私の働く場所なんだから!
おや、お父様。体を震わせて感動ですか?
「それは! ただの引きこもりだぁぁぁぁぁ!」
「ぐえぇぇ」
お父様の手が消えたのが見えると同時に私はお腹へのとんでもない衝撃によりうめき声を上げた後、目の前が真っ暗になるのであった。