中年男性A
自殺者A [秋原 正良]首吊り コンビニオーナー 現在:36歳
フランチャイズ契約店のコンビニオーナー
両親を32歳の頃に飛行機の墜落事故で無くしている。
もう、無理だ。
両親を亡くすまでは俺も幸せだったのかもしれない。
32歳の頃、俺はフリーターで親の金で何とか食っていけるような状況だった。
そんなある時、事故が起きた、飛行機の墜落事故だ。この事故で沢山の負傷者や死亡者が出た。
俺の親もそれの被害者だ、バイト先で「親が事故で重症を負ったらしい」と連絡を受けた時なんの冗談だ、と思った。
だが、病院に着いた時、悲惨な姿になった両親を見てこれが現実だと認めた。いや、認めてしまった。
俺に残ったのは古い八百屋となけなしの金、そして、賠償金だ、賠償金は最初は約1800万近くあったが。
店の建て直し、葬式、墓....次々に出費が重なり、手元に残ったのは300万程だった。
客はほとんど近所のスーパーに取られた。1度、見に行ったことがあるが、信じられない程の安値で売られていた。
客が取られるのも仕方がないように感じた。
最近では昔からの顔馴染み位しか買いにこなくなった。
やっと、親がどれほどの大金を俺にくれていたのか理解出来た。成人してから初めて親に感謝したかもしれない。
親を無くしてから大切さに気づくなんて、親不孝者と罵られても何も言えない。
2年程は借金もせずに経営できたが、それもだんだん苦しくなってきた。
34歳の頃、大手コンビニチェーンから、フランチャイズ契約をしてコンビニオーナーにならないかと薦められた。
それが、とても魅力的に感じた。何故か八百屋を潰すことには抵抗をあまり感じなかったのだ。
両親が死んだショックで頭がどうかしていたのかもしれない。
契約に…フランチャイズ契約に応じてしまった。あの頃の俺は…人生と言う地獄に救いの手を指し伸ばされたような気分だったのだろう。
今思えばこれが、人生最大の過ちだったかもしれない。
手始めに店改築のために出費があった、しかし1年間は黒字で調子も良かった。
だが、本部へのロイヤリティ、大量の廃棄、人件費、12時間労働、休み無し。
そして、まるで追い込むかのように、近くに新しくフランチャイズ契約の店がオープンした。
しかも、八百屋を継ぐときに頑張れよと励ましてくれた幼なじみのやっている店だ。あそこは昔は肉屋で近所でも美味しいと評判だった。
しかし、スーパーの安い外国産の肉に負けて客足が無くなっていっていた。
お袋の作ってくれたハンバーグ…もう一度で良いから食いたかった。
こんなことを思っても、もう時は戻らないと言う残酷な現実を直視させられた。
精神の疲労は増すばかりで客も減っていき、一気に収入が減り赤字スレスレで…あろうことか、ついには借金に手を出してしまった。
あっという間に借金は雪だるま式に増え。ついには4000万を超えた。闇金にも手を出してしまい、取り立て屋が来る日もあった。
最初は楽な仕事だと思っていたが、生活は悪化するばかりだった。
それでも1年間、頑張り続けた。
そして今年。
36歳、本気で自殺を考えていた、そんな時。
本部の社員から、来週に本部直営店がこの近くにオープンすると伝えられた。何故、と聞いても「そう決まったのだから仕方ない」としか答えてくれなかった。
自殺しろ、そう言っているようなものだ。
そんな時にとある噂を思い出した。
ツウェッターで死にたいという主旨の文をツウェートすると、DMが送られてきて、自殺する道具が貰えると言う噂だ。
客が喋っているのが聴こえたのだ、まぁ殆ど聞き取れなかったのだが。かなり胡散臭いと思ったが、自殺をどうすればいいのか、ましてや、分かったところで道具を買う金さえ無いかもしれない。
私はスマートフォンで「死にたい、もうコンビニオーナーはやりたくない。」とツウェートした。
すると数分も経たずにDMの招待が送られてきた。
開いてみると、DMにはURLが貼られていた。こんなの噂では言ってなかったが、聞き取れなかったのかもしれない。
URLを押すと様々な情報を入力するように求められた。今更だし、全て正直に答えた。
するとDMにメッセージが届いた、そこには
「わかりました、あなたの決意を私達は知ることが出来ました。
明日 あなたには 自殺する為のセット をプレゼントします。
もちろん、無料で。
ただし、配信してもらいます。」と書かれていた。
何とも言えない気持ち悪さを文から感じた。まるで、自分の全てを見られていて、考えていることが誰かに見られているようだ。
本当に届くのだろうかと言う事よりも、文が気持ち悪いと言うことに意識が傾いていた。
スマートフォンを放り投げて布団の中で自分は自殺するんだと繰り返し言った。そうでもしないと精神が乗っ取られそうだったのだ。
翌日、朝 6時頃に 家のチャイムが鳴った。
ドアを開けると宅配便の受け取りサインをさせられ、かなり重いダンボール箱を受け取った。
恐る恐る開けると髑髏のマークが付いた黒塗りの箱が出てきた。
なんとも言えない気持ち悪さを感じる。
箱を開けると 何かが書かれた薄い紙、自分の金では到底買えないような最新型のノートパソコン、マイクに、高そうなカメラ。
そして縄と折りたたみ式の台が入っていた。
紙を見て見ると、
「気分はどうだい?
秋原 正良さん、 君には今から自殺をしてもらう。
今回は首吊り自殺だ。
まず、そのノートパソコンを起動してくれ、心配しないでくれ、充電はしっかりしてある。」
紙に書いてある通り、ノートパソコンを起動した。
髑髏のマークが壁紙になっており、かなり悪趣味だと感じた。すると、ノートパソコンから声が流れた。
「ノートパソコンを起動したようだね。
まず、カメラとマイクを接続して。
そのあとアイコンをクリックしてくれ。」
男か女か良く分からない声だ、ボイスチェンジャーでも使っているのだろうか、不思議な声だと思った。
声の言う通りに箱に入っていたカメラとマイクを接続して、アイコンをクリックした。
するとまた声が流れた。
「上出来だ!ようこそ、Suicide.webcast.comへ。
配信設定はこっちで全て済ましてあるよ。
紙の裏に自殺の方法が書いておいた。
それに書いてある手順通りに準備をしてくれ。」
声の言う通りに紙を裏返すと、今まで書いてなかったはずなのに自殺の手順が書いてあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
手順1.台を置く
手順2.紐を高い場所にここに書いてあるように紐を結ぶ
手順3.配信開始を押す
手順4.自己紹介。
「自己紹介は
名前
職業
自殺の方法
一言
でお願いします。」
手順5.遺書を書き、自殺をする。
※カメラは自殺をする方に向けて、マイクは自分に向けてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
手順はかなり簡単なものだった。
書かれてある通りに台を開いて置き、紐を結んだ。そのあと、配信開始を押した。
System:配信開始 ID JP_001 日本での初配信です。
無機質な声でアナウンスの様なものが読み上げられた、どうやら日本で初の配信だったようだ。
少し時間が経つと一気に左のコメント欄にコメントが流れてきた。
《いよいよ自殺スタートか》
《今日は乗り遅れなくて済んだわ》
《最近は外国人の配信ばっかだったから日本人は楽しみだわ》
《何気に日本初じゃねぇの》
《確かに》
読み上げ機能でも付いているのだろうか、自動的にコメントが音声に変換されて聞こえてくる。
どう考えても楽しんでるようにしか思えない。
《聞こえてる?面白い配信期待してるよ》
《つうか、日本での配信も対応したのか…》
画面の向こう側の人達を不気味に感じた。
出来るだけ平坦な声で自己紹介を始めた。
「初めまして、秋原 正良と言います。
職業はコンビニオーナー、首吊り自殺をします。
私はもう精神的に耐えられません、今から自殺をします。」
《声震えてるやんww》
《外国の配信は何言ってるのか殆どわかんなかったけど、日本語だとやっぱ面白いな》
《配信者が何言ってるのかわかるって地味に感動だわw》
声…震えてたかもしれない、俺は……死ぬんだ!今ここで。
もはやコメント欄など気にならなかった。
あらかじめ用意しておいた紙とボールペンで遺書を書いた。
目からは涙が零れた、手は震えた。
《ゝ\Σ灬;¥ゝ⊃:》
《`♪←~*`;Σ》
遺書を書いてる間にもコメント欄では、何か言っているようだったが、涙が止まらなくて、聞き取る所ではなかった。
字はガタガタでかろうじて読める程だった。
遺書を書き終えて、封筒に入れた。
《やっと遺書書き終わったか。》
《書くのおせぇな…30分強って遅すぎだろ。》
《遺書の書く時間の記録更新だなw》
《まぁ、書く時間なんて人それぞれやろ》
どうやらかなり長い間書いていたようだ。
台に乗り、首に縄をかけて。
《どうした?なんで動き止まってるんだ?》
《はーよはーよ》
縄を…かけて
「ハァ…ハァ…」
《今更死ぬのが怖いのかw》
死にたいはずなのに縄をかけるのが…
ここで死ななかったら死により辛い人生が、続くだけだ…
縄を…首にかけた
《縄、首にかけたぞ!》
親父…お袋、親不孝者でごめんな。
八百屋、ちゃんと継げなかったわ。
《なんかブツブツ言ってんなぁ》
《聞き取れねぇw》
「さようなら」
台を思いっ切り蹴りあげた。
首が締まり、苦しい、いつの間にか体が縄を解こうとしていた。
《おいおい解くなよw解けても後遺症残って余計辛いだけなのに》
意識が朦朧として、何を言っているのかほとんど分からなかった。
お袋、親父、いま会いにい…く…
《死んだか?》
《死んだっぽいな動かなくなった。》
《やっぱ人が死ぬ瞬間見るのって最高だわ》
System:配信者の死亡を確認しました、ご視聴、ありがとうございました。
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