4話 出会い
10歳になって、魔法の練習が始まると期待していた僕に突きつけられた現実は残酷だった。
結論から言えば、魔法の練習も始まったが最初だからか、ほとんど説明ばかりで僕の知りたい事は全然わからないままだ。
痒いところに手が届くどころか、気になって更に痒くなって仕方がない。
しかし、ここまでなら僕も嘆いたりしない、僕がこんなに嘆いているのには理由がある。
その理由とは、魔法の練習と一緒に始まった自衛のための武器の取り扱いの訓練だ。
そもそも、明らかにこっちの訓練に対する比重が大きすぎるのだ。
この村は軍隊かなにかを作ろうとしているとしか思えない。
10歳児に10キロ以上のマラソンを課すとかオートで児童虐待だと思う。
しかし、ヘタレな僕には訓練の指導に来てるウチの父と同じくらいのクマに文句を言う勇気はなく大人しく訓練に参加している。
そして、他の子供たちから遅れ始めた僕は「この辺りに危険な生き物はいない」という言葉と「道は、川沿いの道を走るぞ」という言葉を頼りに走ることを諦めて、トボトボと川沿いの道を歩いていた。
川沿いの道を歩いて行った先には小さな湖があった。
「うわぁ〜 」
小さな湖だが、思わず声が出てしまうほどに湖は綺麗だった。
生き物はいないみたいだが、水は透き通っていて、湖の周りの木々の緑と空の青を鏡のように反射していて、厳かな雰囲気があり空気が澄んでいるように感じる。
僕はちょうど喉も渇いていたので湖の水を飲もうと湖に近づくと、1人の女の人が湖のほとりに立っていた。
女の人は10代後半か20歳代前半くらいにみえ、巫女様とか聖女様が着るみたいな綺麗な服を着ていた。
目付きが少しキツいけど、凄い美人だ。
村では見かけたことのない人だけど、とりあえず僕はその人に向かって
「こんにちは」
と挨拶をした。
僕の両親も祖母も、そして何故か妹までも僕の礼儀作法に対して厳しく、挨拶、お礼なんかは特に口うるさく言われているから、見たこともないような美人さんを相手にも気後れせずに挨拶することができた。
我が家の僕に対する教育の賜物だ。
しかし女の人からの返事はなく、挨拶をされた女の人は勢いよく後ろを振り返った。
ひょっとして、この人は危ない人なのではないかと一抹の不安を覚える。
僕の方に方に向き直した女の人は、驚いた顔をして自分で自分の事を指差した。
とりあえず不安はあるが、僕はもう一度女の人に向かって
「こんにちは」
と挨拶をすると女の人は、自分の事を指差したまま僕に向かって
「それって私に向かって挨拶してるの?」
と質問してきた。
この人、ヤバい人かも…
天気は良いが、雲行きは怪しくなってきた。
ただ、今さら後には引けないから、僕は
「そうです。」
「初対面なのに、急に話しかけてすみませんで
した。」
「僕はカナイ村のスバルです。」
と、当たり障りなく自己紹介した。
すると女の人は、驚いた顔から更に目を見開いた。
目玉が落ちるんじゃないだろうか…。
「あなたは私の言ってる事が分かるの!?」
ああー。
やっぱりヤバい人っぽい