1話 はじまりは家族だんらん。
僕には、前世か異世界か分からないが、違う世界の知識があった。
僕にいつからその知識があったのか、もしくはいつその知識を得たのかは分からないが、僕が気付いた時には僕の中にその知識は存在していたし、当たり前の事実として僕の中に根付いていた。
だから最初からは大変だった。
両親や近所の人からは訳の分からん事を言いだす変わった子だと思われていたし、この世界の常識からすれば客観的に見て訳の分からん事を言い出す子供だったと思う。
だから、10歳になる頃までは大変だった。
僕の中の常識をこの世界の常識にやっと合わせられるようになったのが10歳の頃だった。
ざっくりこの世界の事を説明すると、この世界は中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジーの世界、って感じかな。
だから、僕の常識に従って、夕方になって家の中が暗くなってきたから
「電気を点けて」
なんて言ったら、
「何を言ってるの?」
って返事が返ってくる。
ちなみに「何を言ってるの?」なんて優しく返事を返してくれるのは僕の家族と仲の良い友人くらいで、他の村人なら、可哀想な子を見る視線か、嫌味と嘲笑の返事が返ってくる。
そんなこの世界の常識と僕の常識が折り合いをつけれるようになったのが僕が10歳の頃だった。
そんなこの世界の常識だが、さっき言った通り中世ヨーロッパ舞台のファンタジーな世界なんだけど、ファンタジーの常識、魔法がある。
魔法は、魔法陣、召喚魔法、属性魔法、精霊魔法…etc何でもあり。
魔法の力の源の「魔素」って物が世界中のどこにでも存在していて、その魔素を操って現象を発生させるのが魔法で、それに対してどんなアプローチをしていくかは何でも良くて、実際に我が家の中でも複数の魔法が存在している。
台所で料理をする母親の横には、最近奮発して買った、魔法陣の釜があるし、僕の母親は杖を使って属性魔法を使って火を出すし、祖母は言霊を使って精霊魔法を使って部屋に灯をつける。てな具合。
確かにそれぞれにメリット、デメリットが存在するからどの方法が優れているとも言えないし、中には魔法を使えなくて火打石で火をつけている人もいる。
まあどんな方法をとっても最終的に、僕の目の前に温かいシチューが運ばれてくれば僕に文句は無いし、僕の常識からすれば非常識なこの世界も嫌いじゃない。
僕の家は、両親、妹と祖母の4人家族だ。
僕がテーブルに着くと、僕の目の前にはヒゲをそったクマみたいな父が椅子に座った。
父は村長代行兼、大工をしていている。
村長代行というのは、山間の小さな村に領主はわざわざ代官や村長を置いたりせず、村人たちに自治を認めたからできた役職で、僕が生まれる前に亡くなった僕の祖父がこの村を開拓した開拓者たちのリーダーをしていた事もあり、僕の祖父、そして祖父が亡くなった後は父が村長代行をしている。
僕の右側で食事の支度をしている母は、特に仕事はしていないが、庭で畑をやっていて今日のシチューに入っている根菜類も母の畑で採れた物だ。
母の身長は女の人にしては高い方だが、父とは違いクマというよりはシカのような印象だ。
僕の左隣に座った妹は、僕の1つ年下で、今年で9歳になる。妹はやはり両親の娘だからか、身長が同年代の子たちよりもかなり高く、一昨年には僕の身長を抜き、兄妹が逆転し、姉弟状態だ。
その頃からか、妹は僕の世話を焼きはじめ、今では完全に弟の世話を焼く姉状態だ。
僕としては違う世界の知識がある影響もあって、精神的にかなり大人びているので、そんな妹を娘のような気持ちで温かく見守ってるのだが、お姉ちゃんな妹からすると面白くないみたいだ。
ちなみに妹は背は高いが、僕の周りを世話を焼きたくて走り回ってる様子から僕には小動物のような印象だ。
最後に僕の左側の席に着いたのが僕の祖母。
祖母は村の医者兼まとめ役な感じで、医者というのは薬草と魔法を使った治療を行えるのが村では唯一祖母だけだからだ。
そして、まとめ役というのは祖父の時代からなのか、この村の開拓された当時から住む人たちは祖母には絶対に逆らわず、父の村長代行とは違った形で村をまとめている。
僕は祖母が若干苦手で、祖母の印象はそのまんま魔女だ。特に僕を値踏みするようにジロリッと見る目は今でもかなり恐い。