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その7 幕間。

 閉めた扉を背にして、へたり込む魔物が一匹。

「あわわわわ……ッ!」

 その魔物――、赤鬼娘は、へたり込んだまま両手で顔を覆って嘆いた。

「大変なことになってきたッスよぉぉ……ッ!」

 たわわに、ぶるるんッ、と、させながら。

「実に良いタイミングだったな」

 はっと顔を上げてみれば、のそのそと大きなドラゴンが這って近づいて来る。

「あんな感じで良かったんスかね、父上ぇ」

「問題ない。とにかく魔王様を止められればそれで良い」

「父上、傷のほうは……?」

 父上と呼ばれた巨竜の魔物、その巨体には包帯が巻かれていた。体に合わせてか、ビッグサイズの包帯だ、主に幅が。

「なぁに、大した傷じゃぁない」

「あいつに、あの勇者にやられたんスよね……?」

「あれは見事な技だった」

 巨竜は吊り目をさらに細め、微かに笑う。

「それは、殺意などはまるでない、ただ己の信念だけを剣に込め、放った一撃だった。ややあってから、ワシは思わず起き上がり、ジー……ッと見つめてしまったのだ。『あ、ごめんね、いま急いでるんで……』と、あの若造は行ってしまったが」

「あー、どおりでなんか寂しそうだったんスね。戻って来たときの父上の後姿が」

 心なしか巨竜の頬が赤かった気がしたが、そこはスルーの赤鬼娘だった。

「やはり、あの若造が、勇者だったのだな」

「そ、そうッス、あれが勇者ッス。父上にそこまでの傷を負わせるなんて、たかが人間のくせに凄いッス! ……けど、そうなると」

「ああ、あのままでは魔王様も無事では済まん」

「なぁなぁなぁ、どうしてわざわざ止めたンよ? せっかく魔王様、変身し掛けたってぇのに」

 と、似ても似つかない巨竜と赤鬼娘、モンスター親子の間に現れたのは、なにやら派手な格好をした細身の悪魔。

「魔王様にちょちょっと本気出してもらえば、勇者っつっても楽勝なんじゃね?」

 羽根をパタつかせ、胡坐をかきながらも宙に浮いている。まるで道化師そのもののようだ。

「うん。ぱねぇな魔王様は。まぢかっけーよ」

 道化悪魔は長~い尻尾でハートマークを描いていた。

「ちょ、なんでアンタはそんな元気なんスかッ? もー! ちゃんと勇者と戦ったんスかッ?」

 赤鬼娘が詰め寄ると、ひらり宙を舞ってそれをかわす道化。

「いや無理、アイツは無理だって、まぢりーむー。もう本能が察したンだよね。あ、コイツに手ぇ出したらやべぇ、三秒でお花畑だ、って」

「ほぉ。それで文字通り尻尾巻いて逃げて来た、と?」

 ぎろり、ドラゴンが睨んだ。限りなく床に近い足元ら辺から。

「いやいやいやいや、ちょー頑張ったよ、俺っち。使い魔を呼んだり、後ろで応援したり、宝箱の中身ぜんぶ毒消し草にすり替えたりしてたよ? すごくない?」

「ぜんっぜん、すごくないッスよ」

 呆れた視線を送る赤鬼娘。でも、戦闘後に宝箱開けてがっかりする勇者の姿を想像して、ちょっと同情。毒消し草って……。薬草より要らないじゃん。

「つーか、そもそも俺っちの技、なーんも効かねぇし。状態異常が効かない勇者ってなによ、まぢチートじゃね?」

 愚痴る道化。膝を抱えて丸くなってしまった。宙に浮かんだままで。長~い尻尾も、しょぼんっと項垂れる。

 と。

「おれも、はなし、まぜろ」

 またもや巨大な魔物が出現。

「おお、ゴーレムさん! 傷は平気ッスか?」

 赤鬼娘が手を振って招いた。

 このゴーレムさんとやら、全身が石やレンガ、土やドロなので構成された物質系のモンスターのようだ。

「へいき、おれ、ねむらされた、だけ」

「なんと!」

 ゴーレムさん、淡々と続ける。

「ゆうしゃ、なんか、こう、へんな、うた、うたった。ここちよくて、おれ、ねてしまった。たぶん、そのあいだ、ゆうしゃ、すりぬけてった」

「ええー……。それ、門番失格じゃね?」

「いや、アンタが言うなし」

「なぁに言ってんだよ、そっちだって最終扉の護衛サボったじゃんかよぉ」

「いっ、いや、あ、あれは、だって、父上が……」

 ちらり、と赤鬼娘は父ドラゴンを見やるが、ただのしかばねのごとく、返事が無かった。なにやら思案顔ではあったが。

「ゆうしゃ、たぶん、わるいやつ、じゃない」

 と、石人形。その巨体のどこから声が出ているのかは不明だ。

「そぉかなぁ~」

「なかまに、なったら、おめかしグッズとか、くれそう」

「え、なに、ゴーレムちゃん、裏切る気~ぃ?」

「ちがう。ゆうしゃ、たぶん、ぼっち。おれも、ぼっち」

「まぁ、そうだな。俺っちが使い魔呼んだときなんて、『……う、羨ましくなんか、ないんだからねっ!』って、めっちゃ羨ましそうだったもんなぁ、あの勇者」

「だから、ゆうしゃ、たぶん、まおうさま、ころさない」

「いや――」道化悪魔とゴーレムに割って入ったのは、巨竜。「魔王様が、もしもあのまま変身していたら、間違いなく殺されてしまっただろう、勇者によって」

「まぢッスかっ?」「え、まぢでッ?」

 驚愕する赤鬼娘と道化悪魔、ふたりの声が重なった。巨竜が続ける。

「変身後の魔王様はまぎれもなく最強だ。だが、強大な力を手にするのと引き換えに魔王様は、恐らく理性を失ってしまう。つまり、破壊だけを求めた怪物となってしまうのだ。そうなれば、もはや止めることは容易ではないだろう」

「なるほどなー、勇者もきっと死にたくないもんなー。やるか、やられるかって感じか……」

 と、道化悪魔。

「いぁや、でもぉ、魔王様が負けるなんて……、ねぇ? あり得ないッスよ、ね、ね?」

 と、赤鬼娘。

「わからん。が、あの勇者はすでに何らかの力を秘めているようだ。魔王様を殺してでも、止めようとするはずだ。破壊の怪物を人間の世に解放するなど出来ん、とな」

「だから、魔王様の変身を止める必要があったんスね、父上……」


 魔物たちが一様に不安な面持ちの中、

「……じつは、まおうさまも、ぼっち」

 ぼそっと、石人形の巨体が呟いていた。


 しかし だれも きづかなかった……。


 つづく!

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