その6「ショートケーキはんぶんこー!」 「ふん。どうせ苺とパンだろ?」 「ふふん、もしもそれがスポンジの間にフルーツ入りのヤツだとしたら?」 「まさかの高級品ッ?」
「勇者よ、剣を取るがいい! もはや誰にも余を止められぬッ!」
「魔王ッ!」
ただならぬ空気が辺りを覆い始める。まるで嵐の前の曇天だ。光が溢れていた魔宮庭園は次第に闇に染まり、地の底からは雷鳴の轟に似た低い唸り声が上がり出す。勇者と初めて対峙した時に見せた禍々しい魔力を魔王は再び纏っていく。
「貴様に、見せてやろう、余の本当の姿を――!」
「な……にぃっ! ……ま、魔王! お前、まさか……ッ!」
放たれる魔力が向かい風となって吹き付けていた。どうにか持ち堪えていたが、視線を逸らさずにいるだけで必死だった。勇者の見ているもの、そこから不気味な声がした。
「誇りに思うが良い、ここまでたどり着いたことに。光栄に思うが良い、この余と対峙出来たことに。そして――」
それは黒一色。この世界のありとあらゆる色をすべて濁した黒が一点に集中していくようだった。
「後悔するが良い! この余を本気で怒らせたことをなぁッ!」
夜が、闇が、すべての負の力が、渦を巻いて、その中心へ。そこにいるはずの、魔王だったものへ。
「ぐおおおおお……ッ!」
まおうの からだが かわっていく!
――がちゃ。
「魔王様ーぁ! お茶が入りましたよー!」
「……え?」
「……え?」
「うっわ、なにコレ! すげー荒れてるし! なに? 嵐? 台風でも来たのッ? てか、暗ぁッ! あれれ今、昼間じゃなかったけ? もう夜になったの? ま、どのみち、ここ洞窟だからよくわかんないし、どっちでもいいッスけどね! ……にしても、あーあー、もーもーぉ。ったく、せっかく魔庭師検定二級資格所持者であるこの私が整えた魔宮庭園が台無しじゃないッスかー! なにしてんスか、魔王さまー? 寝ぼけて暴れちゃいましたー? ちょっとお茶目しすぎッスよ~? あはははー!」
空間がいきなり開いて、なんかそこからヒト型の魔物が出て来た!
まるで、遠い未来で売っていそうなどこにでも瞬間移動できる扉が、がちゃっといきなり開いたようだった、だが、これはまるで別世界の例え話だ、気にしないでいただきたいッ!
「……えーっと、うーっんと、あのー、魔王さぁ」
「な……、なんだ、勇者よ?」
「そのぉ、なんてゆーか、こう……、でっかくなる途中で悪いんだけどぉ……、誰コイツ?」
「あ……、ああ、……いやぁ、余の部下だけど。作戦参謀長兼任の悪魔神官。……って、勇者よ、余の部下はみんな倒したぞー、とか貴様は言ってなかったっけ?」
「ん? ああ、倒したよ、ここ来る時に会った奴らはね。えーっと、この城の入り口の門番でしょー、階段塞いでたドラゴンでしょー、あと寄り道した先の宝物庫に潜んでた悪魔でしょー、んー……、そんくらいかなー?」
「え、まぢ? あれれ? ……おい、参謀長」
「はいはい、魔王様、なんでしょ?」
参謀長と呼ばれたヒト型の魔物が返事をした。
この魔物、見た目で言うなら、赤鬼娘、といった感じで、ヒト型というか、珍しく女性型の魔物であった。
「貴様は確か、今日、そこの最終扉の番だったはずだよな?」
と、魔王は向こうを指した。そこは勇者が入って来た巨大な扉だった。
「あッちゃー! しまった! すみません、私、今日てっきり非番だと思ってッ! あはははー! ……あ、お客様見えてたんですねー、すぐにそちら様のお茶もご用意をして参りますねー」
――がちゃッ、ばたん、っと、赤鬼娘は勝手口? の、奥に消えてしまった。
「え……、えーっと……ゆ、勇者よ、これは、その、つまりだな……、なんていうか、その……」
「わー、魔王~、中途半端に大っき~ぃ♪」
「戻る! いま戻る! すぐ戻るから! ちょっと待っておれ!」
まおうの からだが もどっていく!
まおうは おもった!
……く、くっそぉ……、なんて最悪なタイミングなんだ……、もう、台無しだ……、色々と……!
そして!
ゆうしゃは おもった!
……あの魔物さん、ちちでっけーッ!
つづく!