その1 プロローグ
薄暗い洞窟の最深部。
巨大で重厚な扉を開けると、視界が一気に広がった。突然の眩しさに目を背けそうになる。
そこは王宮庭園のような場所だった。草が生え、花が咲き、小鳥のさえずりさえも聞こえる。
まさか地下迷宮を潜り過ぎて、世界の裏側まで突き抜けてしまったのか! と、思うほどのに輝きが満ちていた。
いや、そんなはずはない。こんなことが出来るのは、強大な魔力の賜物に他ならない。間違いない。ヤツは、ここにいる!
高鳴る胸の内が恐怖だったとしても、全身を奮い立たせるのは、いつだって勇気だ。
進め!
視線の先、この場に明らかに不釣合いなおどろおどろしい玉座と、それすらも覆い尽くすほどの禍々しいオーラを放つ、その主。ヤツの姿をついに捉えた。
すると、待ち構えたかのように、不気味な高笑いが轟く!
「ぐははははははッ! よくぞここまで辿り着いたな、勇者よ!」
「魔王! 覚悟しろ! お前を倒し、世界に平和を取り戻す!」
「随分と威勢がいいな、勇者よ。それに、たったひとりでここまで来るとは、なかなかの度胸。この余と対峙してもなお、怯みもしないとは」
「何を言っている! お前の部下たちはみんなやっつけてやったぞ! 次はお前の番だ、魔王!」
「ふむ……、気に入ったぞ、勇者よ。――どうだ、余と組まぬか?」
「ふざけるなッ!」
「聴け、勇者よ。そうだな……、余と組めば、世界の半分は貴様にくれてやろう!」
「なにッ?」
「どうだ、勇者よ? 余と組まぬか?」
「…………」
「余とともに世界を掌握し、愚かな人間どもを従えようではないか! ぐはははははは!」
「…………」
「ははははー…………ッて。……ど、どうしたのだ? 勇者よ」
「……ねぇ? それ、本当?」
「は……? ……な、なにを言ってるのだ? ゆ、勇者よ」
「本当に世界の半分くれるの?」
「え? ちょ、ま……っ!」
「ホントにもらえるならいいけどさ、ぼく、イヤだよ? レベル1に戻るのとか」
「いやいやいやいや!」
「なに?」
「断れよ!」
「え、なんで?」
「貴様は勇者だろーが!」
「ええー! せっかくのお誘いなのに~?」
「さびしんぼうか!」
「やっぱ断らないと、レベル1に?」
「あ、う~ん……、ならないんじゃない、かな……? たぶんだけど」
「え~? もー! はっきりしてよねー、大事なとこじゃんかー!」
「待て待て待て待て! 貴様、勇者のくせに生意気だぞ!」
「なんかさー、ぼくのこと、そんなふうに、誘ってくれるヒト、初めてで……」
……ぽっ。
「頬を赤らめるなっ!」
「ああ、認めるよ。ぼくは、さびしんぼうだよ。ひとりぼっちだよ」
「勇者よ……。あ、ホントだ、貴様、ステータスをくわしく見ると性格が『さびしがりや』だな」
「朝から晩まで酒場に居たって、声なんかひとつも掛からなかったよ」
「いや貴様、そこは自分から声掛けなきゃダメだろう、勇者なんだから」
「しょーがないから、ずーっとずーっとひとりで戦ってきたよ。……地元でひたすら戦ったんだよ。スライムなんか10万匹くらい倒したよ」
「どーりであの辺だけ魔物の生産足りないと思ったー!」
「おかげでひとりでもさくさく進めるようになりますたw」
まおうは おもった!
……コイツはダメだ。はやくなんとかしないと。
つづく!